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第二章  疑念と確信(5)

 クッキーとお茶。2人だけの部屋には、ゆったりとして空気が漂っていた。


「黒神君はさ、これから能力者用の授業を受けるわけでしょ?」


 早織は机に突っ伏した体勢で言う。


「ああ、正直嬉しくはないな……」


 対して、黒神は椅子の背にもたれかかっている。共に、リラックスした格好である。


「あはは、確かに。ランク戦とか結構面倒なんだよね」

「出たよランク戦。そうか、参加しなくちゃならないのか」


 不知火高校に限らず、殆どの高校ではランク戦というものが存在する。要するに、能力者同士の対戦。それは、指定された施設でのみ行われるものであるが、ランク戦を開催している高校の敷地内には必ずその施設がある。


 能力の成長は殆どの場合、このランク戦において実現する。故に、原則として能力者は強制参加なのである。


「そりゃ、回復系の能力者が常駐してるとはいえ、痛いのはちょっとな」


 戦いは生身で行われる。ヴァーチャル世界での対戦も出来なくはないのだが、それでは能力の成長が望めない。仮想空間で得た経験値は、現実には反映されないのだ。

 もちろん、死人が出る前に戦闘が終わるようにデバイスが設定され、その後常駐している回復系能力者によって治療が施される。


 ちなみに、回復系の能力者は希少な存在である。なので、発現した者は速やかにこの施設への勤務を命じられる。もちろん、それが中学生であってもだ。

 だからこそ、病院には回復系の能力者がいないし、街中でも出会うことは殆どない。


「本当は、病院に配属したほうがいいんだろうけどな」

「まあ、ランク戦も激しいからね。特に上位者同士の戦いなんかは……」

「聞きたくもないな」

「でも、黒神君はすぐに上位に行きそうだなぁ。なんたって、『英雄』だし」


 早織はそのままの体勢で黒神のほうを見る。よって、必然的に上目遣いになる。


「『英雄』、ねえ。だからって勝てるとは限らないし、それに俺は『英雄』なんかじゃないぞ」


 早織は不思議そうな顔をしたが、その直後、彼女の表情が一変する。正確には、早織のデバイス(彼女は腕時計型のデバイスである)が鳴った時に。


「電話か?」

「…………」


 早織は飛び起きて慌てて床に置いてあるバッグを取った。


「どうして、こんな時に……」


 ポツリと呟いたその言葉には、悲しい感情が込められている気がした。だから、黒神はこう尋ねた。


「大丈夫、か?」


 その一言に、早織の動きが止まる。彼女は黒神の言葉を必死に租借しているようにも見えた。

 数秒して、早織は黒神のほうを向くと、震える声で、


「9672回目……ううん、大丈夫だよ。ごめんね黒神君……本当に……ごめんね。また、明日」


 自分で発した言葉に、早織はハッとした。


「あ……明日は休日だったね。ごめん……また月曜日に」

「あ、おい月宮!」

「……早織って、呼んで欲しかったなぁ」


 最後の言葉はか細くて、黒神には聞き取れなかった。だが、彼女が部屋から出て行くときに見せた悲しそうな表情が、黒神の脳裏に焼きついた。

 1人になった部室で、黒神は思う。


「昨日といい今日といい、あの表情には何かある。それに……9762回目って台詞。何かを伝えたかったんだ。月宮……一体お前は何を抱えてるんだよ!!」


 今までなら、自分は無能力者だから出来ることはないと諦めていただろう。だが、今の彼は能力者だ。出来ることは増えた。

 もしも、彼女が何かしらの事件に巻き込まれているのなら、救い出す。そう覚悟出来るだけの力を黒神は持っている。

 本能が告げるのだ。



 ――彼女を救い出せ、と。

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