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第二章  疑念と確信(4)

「クローン実験」


 朝影は誰もいない部屋でポツリと呟いた。

 神原から伝えられたエデンで行われている実験、それがクローン実験だ。

 理論上、クローン人間はその基となった人間(所謂オリジナルという存在)と同じ容姿をしている。それは、オリジナルの遺伝子を基にして作られているからだ。


 そして、オリジナルの遺伝子を使っているということは、そのクローンはオリジナルと同じ能力を有しているということになる。能力は遺伝子と結びついているのだから。

 だが、


「だとしたら、どうして『二重能力』なんか……」


 ここで矛盾が生まれるのだ。

 そもそも、『二重能力』というのは1人の人間が異なる能力を2つ所持している状態を言う。もちろん、ありえない話ではないのだが、2つの能力を所持することは人体に巨大な負荷がかかってしまうため、もしそうなったとしても当該人物はすぐに死に至ってしまう。


 そして、それはクローンにも言えることだろう。

 人工の人間だとは言え、その構造は人間と同じだ。つまり、もし『二重能力』を手にしたとしても、


「無意味……なのよね」


 それに、その基となったオリジナルは能力を1つしか持っていないはずだ。そうなると、理論上はクローンも1つしか能力を持っていないことになる。


「いや、もしかして」


 オリジナルがそもそも『二重能力』だったとしたら、この実験は成立する。

 例えば、エデンのデバイス技術が『特定の能力を発現させる』ということを可能にしたのなら。


「デバイスは、対象者の能力を管理するためのもの。それなら、遺伝子の中に2つの能力がある人間でも、1つの能力だけを発現させることが出来る。そうすれば、貴重な『二重能力』を保存できる……」


 そして、その遺伝子を使ったクローンを作れば。


「クローンの体を強化することが可能かどうか……いやそもそも、この実験はそれが目的じゃない? だとしたら、考えられるのは――」


 朝影は後頭部を掻き毟りながら考える。

 クローン実験の目的。わざわざクローンを使う意味とは何か。


「消耗品……つまり、死んでも社会に影響を及ぼすことはない。そうか、だったら!」


 『二重能力』が、果たして本当に可能なのか。もし人間が『二重能力』を手にしたらどうなるのか。それを試す実験だとしたら、わざわざクローンを使っている理由も合点が行く。


「つまり、実験内容は『二重能力』が可能かどうかの試験」


 もしも朝影の予想が当たっているとしたら、これは事件にならないか。


「クローンに対する倫理違反。クローンの作成はグレーゾーンにまで緩和されたけど、倫理的規範は変わっていないはず。私の予想が正しければ、隊長たちも動ける」


 とはいえ、証拠が無ければ警察は動けない。

 そう、だからこそ神原は朝影と黒神を頼ってきたのかもしれない。


「自分たちが動けるだけの証拠を集めろってことね」


 つまり、神原は既に朝影の考えにまで到っているということになる。


「やっぱり、あの人は凄い……よくもまあ、勝てたものね」


 深くため息を吐いたその時。



 朝影の脳裏に、とある人物が浮かんだ。

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