第二章 疑念と確信(2)
朝影光は、退屈していた。
彼女は白と青のストライプの半袖に、ジーパン姿でベッドの上をゴロゴロしている。
また大通りにでも行こうかと考えたが、特に用事も無いので、行く気力が湧かない。これだけ暇だと、今まで嫌っていた学校に行きたくなるのが不思議だと彼女は思う。とはいえ、何度も言ってるように、彼女は学校に行けない状況にある。
「あ、よく考えれば私って凄い生活してるんだよね」
同い年の男の子とワンルームのマンションで同居。普通ならありえない生活である。
朝影はベッドの上から降り、少し遠くにあるリモコンを取った。その後すぐにベッドに寝転がり、テレビを点ける。
「この時間って、ニュースしかやってないのよね……」
どのチャンネルに変えても、朝のニュースしかやっていない。辛うじて子どもの教育番組がある程度だ。
「やっぱり、外界の情報は無い……か」
エデンのニュースでは、外界の情報をあまり流さない。流すものといっても、首相がどうだの他国がどうだのというエデンに関連した話くらいで、外界が現在どうなっているのかは殆ど分からない。
情報統制。もしくは、単に報道していないだけか。
「もしも前者なら、ここはまるで鳥籠ね。まあ、そのおかげで『楽園解放』が治安部隊になることに関してそこまで反発は無かったわけだけど」
そんなことを呟きながらチャンネルを変え続けていると、玄関の呼び鈴が鳴った。
「……こんな朝っぱらから誰よまったく」
いつもなら黒神が出るのだが、今彼はいないし、なんなら暇だったので嫌々ながらも起き上がって玄関のドアを開ける。
ちなみに、彼女の青髪は少し乱れている。
「どちらさ――まっ!?」
そこにいたのは、黒いスーツ姿の30代くらいの狼のような髪型の大男だった。
「隊長、どうして」
神原嵐。『楽園解放』の隊長である。
「なんだ、君しかいないのか」
神原は自然なかたちで玄関に入る。それを朝影も拒否せず、そのまま部屋へと招き入れる。
(暇だとは思ったけど、まさか隊長が来るなんて!)
しかも、前に彼と2人だった時は朝影はボコボコにされていた。それ故に、何となく気まずい。
「だッたらこの話し方でもいいよな」
「別に黒神がいるときもそれでいいんじゃ……」
「あいつが嫌がるからな。さて、早速本題に入るぞ」
床にドカッと座ると、神原は真剣な顔で話し始めた。
「本当は黒神にも話を聞いて欲しかッたんだがな。まあ、急を要する話だ。仕方無いか……テメェが伝えといてくれ」
「わ、分かったわ」
「クローンは、分かるよな?」
「ええ、まったく同じ遺伝子の人間を生み出すっていう……」
「ま、そんなところだ。実はなァ、そのクローンを使ッた実験が行われてるんだよ。実験の目的は、『二重能力』の開発」
「『二重能力』……やっぱり、もうそこまで」
「あァ、しかもホープの中で行われてるらしくてな。テメェらに協力をしてもらおォと思ッてな」
「それはいいんだけど……治安維持部隊でどうにかできないの?」
「俺たちは明確な事件が起こらない限り動けねェ。今下手な動きをすると警戒されかねん。出来れば、テメェらで片付けて欲しいんだ」
現在、『楽園解放』はエデンの治安維持部隊――要するに警察として機能している。問題が実験であるために、彼らが動くわけにはいかないのだ。実験自体、このエデンでは違法ではないのだから。
「場所が分かり次第連絡する。テメェのデバイスに連絡すればいいか?」
朝影は頷きながら、自分のデバイスを見せる。彼女のデバイスは黒神と同じく携帯電話の形をしている。
「……また面倒なことになるが、頼んだぞ」
「了解」
かつての強敵からの頼み。朝影にとっては、自分の隊長からの頼みだ。これも、あの激戦を経ての変化だろう。
神原は義手に朝影のデバイスのデータを打ち込むと、仕事に戻るために帰っていった。
去り際、彼はこう伝えた。
「頑張れよ。色んな意味でなァ」
なぜあのオッサンがニヤニヤしていたのか、朝影には分からなかった。




