第二章 疑念と確信(1)
翌日。この日も黒神は学校に行かなければならない。
ようやく普通の服を着て生活し始めた朝影と他愛も無いやりとりをして、黒神は学校へと向かった。
(朝影も、うちの学校に転校してくればいいのにな。つーか、正直言って自分の部屋に女の子が住んでるって、中々……)
いつもなら出来ることも、この状況では出来ないことがある。特に、一部屋しかないような場所に2人で暮らすとなれば。黒神も高校2年生、溜まるものは溜まるのである。
なんなら、洗濯物も一緒に干すため、余計に溜まってしまうものがある。
(……いかんいかん。また弱みを握られる)
「おはよう、黒神君」
そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、そこにいたのは月宮早織であった。
「おはよう月宮姉」
「何その呼び方」
「いや、妹と区別しとかないと」
「だからって姉はないでしょ……」
早織は額に手を当てて、肩をすくめる。
「な……名前、でいいわよ」
「は?」
「だから、区別したいなら私たちのこと、名前で呼んでもいいわよ」
なぜか早織は恥ずかしそうに黒神がいる方とは真逆を向いている。さっきは肩をすくめていたのに、今度は肩を震わせている。
「い、いいのか?」
「……うん」
ラブコメの主人公ならここで躊躇なく名前を呼ぶのだろうが、黒神にはそんな度胸は無かった。呼んでいいとは言われたものの、それを実行するのにはかなりの抵抗がある。
「さ、早織」
「……な、何!?」
「なんで驚いてるんだよ……そ、そうだ。名前呼びは姉妹が揃ってるときだけにしよう。なんかその……さすがに恥ずかしいだろ」
「そそ、そうね、それがいいわ!」
とはいうものの、何故か早織は残念そうに肩を落とす。
「あ、そういえば月宮、用事って何だったんだ?」
昨日、月宮姉妹は突然帰ってしまった。しかも、姉妹で表情がバラバラであった。早苗は遊びに行くと言っていたが、早織の表情は遊びに行く人間のそれではなかった。
そのことが黒神は気になっていたのだ。
しかし、この質問に深い意味は無い。友達に昨日何してた? と聞くのと同じ感覚である。
「…………」
だが、早織の表情は一変してしまった。昨日見たのと同じ、暗い表情。
「月宮?」
「……あ、遊びに行ってたよ。そう、えっと、ゲームセンターに」
何か、言いたくないことでもあるのだろうか。彼女の言葉が嘘だということは、すぐに分かる。
「そうか、いやなんとなく気になってな」
黒神はそれ以上の詮索をしなかった。誰にだって隠し事はあるだろう。実際、黒神も隠し事があるのだから。
「ねえ黒神君、もし私が助けてって言ったら、助けてくれる?」
「……もちろん」
その言葉に嘘はない。早織の声のトーンが低かったため、黒神も嘘は言えなかった。
(もしかして、月宮は……)
考えてはみるが、彼女からそれ以上の言葉が来ないので、黒神はこれ以上は考えないようにした。
ちょうど学校も見えてきたので、2人の会話はそこで終わった。そして、今日という新たな1日が始まる。




