第一章 似すぎる姉妹(10)
黒神と朝影は買い物を終えると、そのまま自宅へ向かった。もちろん、荷物は黒神持ちである。
「その、部活の買出しだったんでしょ? だったら部活に戻ったほうが良かったんじゃない?」
「うちは自由だからな。参加してもしなくてもいい。なにせ、活動内容なんてただ話すだけだし」
「そんなもんなのね……」
朝影は納得がいっていないようだ。確かに、そんな部活が部として認められている学校は少ないだろう。
「なあ朝影」
「何?」
「今日さ、焔を見てないか?」
「見てないけど……」
赤城焔。黒神の部屋の隣に住む、彼の親友で、先の神原との戦いの時に黒神に覚悟を決めさせたり、共に戦ってくれたりと、黒神にとっては恩人のような存在だ。
だが、彼は今日、学校に来なかった。それどころか、あの戦い以降彼の姿を見ていない。
「変なことに巻き込まれてなけりゃいいんだが……何しろ、あいつは……」
黒神は赤城にだけは、すべてを話している。クラスメートには話さなかったことも、すべて。
彼が何かしらの事件に巻き込まれていてもおかしくはないのだ。エデンの内部事情の一端を知ってしまったのだから。
「隊長からは何も聞いてないわ。だから、今は大丈夫よ。でも、もし自発的に何かに足を踏み入れたのだとしたら、それは予測できないわね」
朝影はあくまでも、冷静な判断をした。
「……まあ、そのうちひょっこり顔を出すだろうな」
あの男は人の家の鍵を突破してくるような変人だ。だから、変人らしく突然現れるはずだ、と黒神は自分に言い聞かせる。
日常が変わってしまったのは黒神だけではない。赤城や朝影、そして神原を含む『楽園解放』のメンバー――数えればキリがない。そのことを、改めて実感する。
「できるだけ、早くこの問題が解決するといいけどな」
「世界大戦を阻止できれば、最短での阻止と言えるかもね」
「はは……」
世界大戦、そのスケールの大きさ故に黒神には実感が湧かない。そんなもの本当に起こるのだろうか。
(いや、それを確かめるためにも、進まなきゃいけないんだ)
マンションが見えてくる。やはり、赤城の部屋には明かりが灯っていない。
(……焔)
2人は部屋に入り、『今』の日常を過ごすのであった。




