第一章 似すぎる姉妹(9)
月宮早織は常識人らしい。
彼女の説教は十数分に及んだ。黒神の足は限界に来ていて、足を崩すのが精一杯で、立つことが出来ない。今足を触られたら確実に彼は悶え苦しむだろう。
「とはいえ、解決方法は地道に物件を探すしか思いつかないわね……」
「ねえお姉ちゃん、なんでそこまで怒ってるのっ?」
「だ、だって男女2人っきりよ!? しかもマンションの一室で! そんなのうらやま――おかしいでしょ!!」
一瞬何か聞こえたような気がするが、黒神は聞いておらず、朝影は考え事を再開したらしくこちらも聞いておらず、そして早苗は聞こえないフリをした。
「とにかく、この問題は早急に解決すること。朝影さん、何かされたらすぐに私に言ってよね!」
「……え? あ、うん、そうするわ」
「っていうか、今まで何も無かったの!?」
「特には……あ、そういえば病院での話しなんだけど――」
「おい馬鹿、これ以上火に油を注ぐんじゃねぇ!!」
黒神は足の痺れも忘れて立ち上がり、慌てて朝影の言葉を遮る。なんというか、あの件を言われたら今度は殺されそうな気がするのだ。
「……お姉ちゃんっ」
姉を呼ぶ早苗の声のトーンは低かった。その声の低さに、早織はあることに気づいたらしい。彼女の表情が暗くなる。だが、対照的に早苗の表情は明るい。声のトーンとは反比例である。
「もう、そんな時間なの?」
「うんっ。じゃあ、遊びに行こっかっ!」
「用事があるのか?」
「そんなところかな。ごめん、黒神君。お菓子は私が部室に置いてくるから、今日は解散しようか。あ……それとも黒神君部活戻る?」
「いや、今日はもう帰るよ」
「了解。じゃ、私が置いてくるね」
黒神と朝影はお互いに顔を合わせる。そして、
「分かった。じゃあ、また明日な」
そのまま、月宮姉妹は不知火高校がある方向へと向かっていった。部室にお菓子を置いてくるためだろう。
残された黒神と朝影は、改めて2人でベンチに座る。
「お、服買ったんだな」
朝影は買った服が入っている袋をベンチの下に置いていた。黒神はそれを発見したのだ。
「ええ、あまり多くは買えなかったけど」
「やめろ、金の問題はどうしようもないんだ。そんな哀れみの視線を向けるな」
「でも、友達が出来た。不思議な子だけど」
「良かったじゃねぇか。まあ、俺の知り合いの妹だったってことに驚きだけどな」
「……それにしても似てたわね。クローンでも見てるみたいな気分だったわ」
「喋り方でしか識別できないってのは珍しいよな……それも、普通の姉妹で」
いまの時代、ありえない話ではないのかもしれないが、やはり人間の神秘というのは恐ろしい。
「そうだ、ついでに買い物して帰ろうか」
「そうね。じゃあ、これ持ってくれる?」
そういって、朝影は服の入った袋を渡してきた。あまり重くはないため、黒神も承諾する。
「さ、行こうか」
2人は一緒に歩き出す。
もしも、神原と戦っていなければ。あの時、病室で覚悟を決めていなければ。朝影を見捨てていれば。
ふと、黒神はその時のことを想像してみた。そして、改めてこれで良かったのだと認識する。たとえもう引き返せないとしても、今ここにある幸せは大きなものだ。これからも、こんな幸せが続けばいいと心から思う。




