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第一章  似すぎる姉妹(8)

 そんなわけで、どんなわけで。

 大声を出してしまった手前、肩身の狭い思いをしながらも目的物の購入を済ませた4人は、外のベンチの場所にいた。ちなみに、黒神だけはベンチに座らずに立っている(さすがに4人となると狭かった)。


「それにしても、偶然にしてはあまりにも異常だよな」

「こっちの台詞よ……」


 同居人と姉妹。各々がペアで、しかもばったりと出会ってしまった。どれほどの運を使えばこのような偶然が生じるのだろうか。


「まったく、早苗はいつも人を振り回して……しかもよりにもよって黒神君の知り合いとか」

「なんでお姉ちゃん怒ってるのっ? あ、デートの邪魔されたからっ?」


 無邪気な笑顔で問うてくる妹に思いっきり拳骨を振り下ろす姉。早苗――ここからは区別のために両方名前で表記するが――は頭を抑えて蹲る。


「痛いぃぃぃっ!」

「変なこと言うからよこの馬鹿!」

「でもお顔真っ赤だよっ?」


 早織はもう一度拳骨を振り下ろした。


「つーか、月宮って双子だったんだな」


 そう、早織と早苗の見た目は全く同じと言っていいほど似ている。初見で見分けが付く人はいるのだろうか。


「え? ううん、双子じゃないよ。普通の姉妹」

「……マジかよ。人間の神秘って凄いな」

「人間の神秘……まあ、そんなところかな」


 早織は苦笑いを浮かべる。


「ところで、貴方たちはどうしてここに?」

「部活、といっていいのかは分からんが、その買出しだよ。朝影たちこそ……いや、買い物か」


 朝影がここにいる理由は予想が付いた。朝、家を出る前に服を買えと言っておいたからだ。答えを先に言われた朝影は面白くなさそうな表情を浮かべる。


「あ、ねえねえっ。光ちゃんと黒神君って同居してるのっ?」


 唐突な質問に、黒神と朝影はほぼ同時に吹き出してしまう。咳き込んだまま、朝影が答える。


「げほっ、その……なんて言ったらいいか……えっと」


 とはいえ、朝影も回答に困ってるようだ。『楽園解放』の一件のことを話してもいいのだが、現状朝影は『楽園解放』から縁を切って、エデンのために戦った人間として認識されている。

 故に、下手なことは言えないのである。


「えっと、私は元々外界の人間だから……」

「ああ、そういうことかっ。でも家くらい提供されなかったのっ?」

「……言われてみれば、確かに」

「だよねっ。なんでだろうねっ?」


 そう問われると、不思議なことである。確かに『楽園解放』用の寮は提供されなくても、彼女が住む家を提供されないというのはおかしな話である。


(考えてみれば、やっぱりおかしなことだらけだ。コルンの件といい、家の件といい……まるで、そうなるように誘導されてるような……)


「あれ、お姉ちゃんどうしたのっ? さっきから俯いてワナワナ震えてるけどっ」


 同居、という言葉が出てから、早織はずっと俯いていた。拳を握り締めてる辺り、怒ってるようにも見えるが――


「同居ってどういうこと……」


 やはり怒っていた。


「え、ちょ、月宮?」

「なにっ?」

「いや妹のほうじゃなくて!」


 早織はユラユラと酔拳の使い手のような動きをしながら黒神の胸倉を掴む。


「思春期の男女が同居っておかしいでしょ!?」

「仰るとおりなんですが! これには俺の意思は! 含まれておらず! ほぼ一方的に結ばれた契約でして!! いわゆる俺には責任のないものでして!!」

「朝影さん、本当?」


 朝影は考え事をやめて、笑顔で答える。


「貴方からの承諾はもらったはずだけど?」

「朝影てめえぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええ!!」


 実際、朝影のほうが正しいのだから仕方が無い。諦めた黒神は早織からしばらく説教を受けた。もちろん、アスファルトの地面に正座で。

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