第一章 似すぎる姉妹(5)
黒神の家の近くにある大通りには、様々な店がある。黒神がよく行くスイーツ店もここにあるし、ゲームセンターやファストフード、さらにはジムも存在する。洋服店は数店舗あり、どの店舗にも特徴がある。
例えば、朝影が入った『バード』という店は女性物――それも10代が着るようなものしか置いていないのだ。故に、この店には学生しか来ない。店内は広く、季節はずれの夏服も置いてある。
「色んな制服の子がいるな……この近くってそんなにいっぱい学校あるんだ」
エデンの中の大都市、ホープ。大都市というだけあって、学校の数は非常に多い。特にこの地区には小学校から高校まで合わせると、30ほどの学校がある。もっとも、小中一貫校や中高一貫校、小中高一貫校も存在するため、厳密に分けるとするとさらに多くなるだろう。
「……楽しそうだな」
店にいる少女たちは、友達同士でコーディネートを審査していたり、試着室で遊んでいたりしている。高校生であろう少女たちはあの男を引っ掛けるならこれ! だとか言って楽しそうに服選びをしている。
考えてみれば、朝影も元々は普通の女子高生なのだ。本当なら、目の前の光景の一部に自分がいたはずである。だが、彼女はもう踏み込んでしまった。そう簡単に戻ることは出来ない。
(分かってるのに、この光景が羨ましい……早く買って帰ろうかな)
朝影は入り口に設置してある台車から買い物用のカゴを取り、店内を回っていく。
「これと、これ……っと、あんまり高いのはダメだったっけ。まあ、居候だから仕方ないんだけど、それにしても女心を分かってないわよね」
あの少年は女子に向かって下着を買えという男だ。デリカシーが無いのか、それとも朝影を女として見ていないのか。
(後者だったらちょっとショックかも)
朝影も、自分のルックスには多少自信を持っている。それに、病院での一件もある。後者である可能性は低いだろう。
そう結論付けると、朝影は無性に腹が立ってきて、商品をカゴに入れる力が強くなる。
床を強く踏みしめながら歩いている朝影に、周りの客は驚いているようだった。
そのまま下着売り場まで来ると、またも黒神の顔が浮かんできて、余計にイライラが積もっていく。
「あぁぁぁぁっ!! 帰ったらもう1発殴ってやる!!」
勢いに任せて下着を2着入れ、レジに行くために振り返ると、同い年くらいの少女とぶつかってしまった。
「痛っ……あ、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だよっ。アナタこそ大丈夫っ?」
語尾に星マークが付きそうな喋り方だ、と朝影は思った。
少女は、腰まで届く長くて綺麗な茶髪をポニーテールにしていて、凛とした顔立ち、少し胸が寂しい気がするがそこを抜けばかなり可愛い部類に入るだろう。
長袖の白いワンピースを着ていて、その上にカーディガンを羽織っている。
お互いに苦笑いをすると、その少女は突然顔を寄せてきて、
「ね、ちょっと付き合ってくれないっ?」
暇をもてあましていた朝影は突然の申し入れに不信感を覚えながらも、ゆっくりと頷き、その少女と一緒にレジへと向かった。




