第一章 似すぎる姉妹(3)
「地獄だった……」
「ぶっはっは!! 終夜、怒られてやんの!!」
帰りのHRが終わると、南波がわざわざ黒神の席まで来て、指を指して嘲笑する。
「うるせえ、お前も怒られてただろ」
「俺はいつものことだから良いんだよ!」
「どういう理屈だ!!」
怒られた理由は、言わずもがなであろう。普段怒られ慣れていないため、余計にダメージが大きい。だが、一応来週までに提出という猶予を得た。絶対に終わらせると心に誓う黒神であった。
「さて、部活……行くか」
黒神は歓談部という部に所属している。活動内容は、特に決まっておらず、好きなときに集まっては雑談をするという部活である。これでも公認の部活だ。部室は3階にあるため、黒神は階段を上らなければならない。
「まあ、あのメンバーなら質問責めされることは無いだろ……」
ため息を吐きながらも、黒神は部室へと向かう。
「そういえば、今日は焔学校に来てなかったな」
あの戦い以降、赤城の姿を見ていない。部屋にも帰ってきていないようで、黒神としても少し寂しさを感じている。それに、警察を呼んでくれたお礼もまだしていない。
3階には3年生の教室がある。すれ違う先輩たちの殆どが黒神に好奇の目を向けるが、話しかけてくる人間はいない。後輩が『英雄』だとかはあまり受け入れたくないのだろう。
「ん、着いたっと。って、誰もいないのかよ」
部室のドアを開けるが、電気も点いていなかった。
部室には大きなテーブルと10脚くらいの椅子、そして食器棚が設置してある。
歓談部には卒部という概念はなく、3年生も普通に来るのだが、さすがにこの時期は大学の試験などで忙しいため殆ど来ない。
「えっと、お菓子は……げ、何も無いし。ああそうか、冬休み前に全部食べちまったんだっけ。買いに行かないとな」
歓談部の部費は、お菓子とお茶に当てられる。それ以外に当てるものが無い。また、お菓子は基本的には最上級生が買ってくるのだが、3年生がロクに参加出来ない以上現在は黒神たち2年生が最上級生となる。
「こんにちはーって、黒神君しかいないの?」
1人の少女が部室に入ってくる。もちろん彼女も部員である。
腰まで届く長くて綺麗な茶髪をポニーテールにしていて、凛とした顔立ち、少し胸が寂しい気がするがそこを抜けばかなり可愛い部類に入るだろう。
「月宮か。まだみんな来てなくてな」
月宮早織。それが彼女の名だ。月宮はバッグを床に置くと、椅子に座りながら、
「そうなんだ。まあいいや……あ、そうだ。折角2人なんだしあの話聞かせてよ」
「2人だからって、関係ないんじゃ」
「大人数から責められるよりいいじゃん」
なんだか違う意味にも捉えられそうな会話だが、本人たちは気づいていないらしい。
「あー、そうだな。それより、お菓子がもう無いんだよ。買出しに行かないといけないんだが……」
「そうなの!? あちゃー、忘れてた。そういえば冬休み前に食べちゃってたね。分かった、じゃあ一緒に行こう! 道中で話を聞かせてもらおうか!!」
黒神は着いてきてとは一言も言ってないのだが、かくして2人は一緒に買出しへ行くことになった。宣言通り、月宮はその道中に色々な質問をしてきたが、やはり黒神は核心には触れなかった。




