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第一章  似すぎる姉妹(2)

 不知火高校は黒神の家から歩いて10分ほどのところにある。今年で創立30周年らしく、そこそこ歴史のある学校だ。

 歩いて通学する生徒が多く、この時間帯は多数の学生が通りを歩いている。


「はぁ……どう言い訳するかな」


 不知火高校は2学期制であり、秋休みを境に前期と後期が分かれる。つまり、冬休み終了後の初日であろうと始業式などは無く、いきなり授業なのである。故に、宿題を終わらせてない者への猶予などない。


「おはよう、終夜!」


 後ろから話しかけてきたのは、茶髪ロン毛の男子、南波洋介(なんばようすけ)である。男にしては大きな瞳が特徴か。


「洋介か。おはよう」

「なんでちょっと残念そうなんだよ……まあいいや。それよりもさ、お前凄いよな! まさかテレビに出るだなんて」


 そこかよ、と思ったが黒神はそっと胸にしまいこんだ。


「まさか、能力が発現するとは思わなかったよ。ま、これでお前らからからかわれなくて済むから、万々歳なんだけどな」

「そうかそうか……成長したな、終ちゃん!」


 我慢できなくなった黒神は南波の腹に肘打ちをする。妙な声を出して蹲る南波を置いて、黒神は学校へと向かう。

 その後、同じ学年の生徒と会う度に神原との戦いを聞かれたが、黒神は核心には触れずサラリと受け流していった。核心――つまり実験云々の話をしてしまうと、関係の無い人間を巻き込んでしまうからだ。


 黒神自身はこれまでとは変わってしまった。だが、少なくとも今ここに流れている時間は今までと変わらない。いつもの、ごくありふれた日常なのである。





 2階にある教室に入ると、やはり質問責めにあった。あれだけSNS上で聞いてきたくせに、まだ聞くことがあるのかと彼は不思議に思う。


「おい黒神、あの書類早く出せよ」


 教室にひょこっと入ってきた初老の教師が言う。黒神は立ち上がり、黒い通学バッグの中にいれていた書類を取り出す。

 黒神は確かに能力が発現した。だが、デバイス上は現在も『不適合』と表示されている。よって、デバイスでの能力者登録申請が出来ず、こうした書類を書くはめになったのだ。

 書類を渡すと、教師は黒神の顔を見ながら、


「これから大変になるぞ。頑張れよ」


 そう言って、階段を降りていった。


「つーか、あの書類出したから今後授業が増えちまうのか! ああ、やっぱり出さなきゃ良かった!!」


 とはいうものの、彼が能力者になったことは既に周知の事実であるため、書類を出さなくても強制的に能力者用の授業に狩り出されただろう。ちょっぴりメディアを憎んだ黒神であった。

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