第三章 死力の再戦(14)
「神原ぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!」
轟音が響いた。
黒神が突き出した右拳は神原の腹部に突き刺さる。
「ぐッ、ふッ、あァァァァァァァァァァァァッ!!」
神原は胃液と血が混ざった液体を口から吐き散らした。さらに、彼の体に着地した黒神の体重も重なり、今度こそ全身から力が失われる。
圧迫されたためか、左肩からは大量の血が吹き出している。このまま放っておいても、出血多量で死に至るだろう。
黒神も無事では済まなかった。
着地点は神原の体だったとはいえ、突き出した右腕はあらぬ方向に曲がっているし、両足にも激痛が走っている。また、神原の膝が腹部に突き刺さり、あばらも折れているようだ。
「が……はっ……神、ば……ら」
神原の体はピクリとも動かない。辛うじて息はしているものの、残された時間は少ないだろう。
ただでさえ左腕を抉り取られても戦い続けていたのだ。彼の思いが強かろうが、体が限界にきている。
黒神は動かせる左手を使い、神原の体の上から床へと自分の体を動かす。とんでもない激痛が走ったが、何とか移動できた。
「はあ……がはっ! し、死ぬ……のか。畜生、笑えないぞ……」
口から吐く息は鉄臭く、唾ではなく血が溢れてくる。
天井に空いた穴からは夕日が微かに差し込んできている。冷たい風が頬を撫でる。
(でも、朝影を助けられたのなら……これでいいかもしれないな)
黒神はゆっくりと目を閉じる。不思議と、不快感は無い。朝影を助けることが出来たという安心感と、神原を倒せたという達成感のほうが勝っている。
視覚と嗅覚は遮断されている。故に、黒神には誰かが階段を降りてくる音が聞こえた。
「黒神!!」
朝影光。長くて綺麗な青い髪の少女の声がした。彼女もボロボロでかなりのダメージを負っているようだが、それでも力を振り絞って走ってきたらしい。
「しっかりしてよ、黒神!!」
彼女は黒神の元へ駆け寄ると、彼の右手を両手でしっかりと握って、声をかける。時折動かない神原のほうを見ている。
「貴方に死んでもらったら困る……こんなに大きな借りを作っておいて、何も返せないなんて嫌よ! ねえ、お願いだからしっかりして!!」
だが、彼女の懇願とは裏腹に、黒神の意識は深い闇の中へと落ちていく。遂には、朝影の声すらも聞こえなくなった。
朝影の青い瞳から流れる涙は、黒神の右手を濡らしていく。だが、その涙の冷たさも、彼女の手の暖かさももう黒神は感じることができない。
――こうして、カントリーの廃ビルで起こった戦いは終結した。




