第三章 死力の再戦(13)
第三次世界大戦を経て、急速に発展しだした能力開発。
戦争の抑止力だとされたそれを、彼も支持していた。戦争の無い世界、それを創るための能力開発なのだと思っていた。
だが、彼は気づいてしまった。
能力開発は抑止力などではなく、日本が世界の頂点に立つためのものだということを。
エデンがこれ以上発展してしまえば、日本はより戦争に近づくことになる。もし戦争が起これば、エデンどころか外界に住む人間も苦しむこととなるだろう。
そして何より、再び膨大な数の命が失われてしまう。
だから、彼は同志を募った。
案外、彼と同じ思想を持つ人間は多かった。短期間でかなりの人数が集まり、彼は集団を『楽園解放』と名づけ、活動を始めた。
これをエデンや政府は見過ごすはずがなく、幾度となくエデンからの刺客が送り込まれてきた。
最初はなす術もなく、『楽園解放』のメンバーは何人も殺され、恐れをなした人間は次々と脱退していった。残ったメンバーにも諦めの雰囲気が蔓延していた。
所詮、能力者でもない自分たちが能力者に抗おうなど無理な話なのだ。
彼自身そのことを切に感じていた。
だがある日、彼は『楽園解放』の残党を始末するために来たエデンからの刺客を圧倒してしまう。そう、この時に『無効化』が発現したのだ。
この日を境に、『楽園解放』は息を吹き返す。
メンバーの多くが能力の発現に成功し、『楽園解放』はエデンからの刺客に十分対抗できるほどの集団となった。
これなら、エデンを破壊し、日本が戦争へと向かっていくのを止めることが出来る。ようやく、この時が来たのだ。
朝影をはじめ、多くのメンバーが新しく加入し、『楽園解放』の規模は軍隊ほどにまで成長した。
不定期に送り込まれるエデンの刺客も苦戦することもあれど、軒並み撃退し、遂に彼は決意した。
――『エデン破壊論』を実行する、と。
『楽園解放』の人間が集結すれば、たとえ能力者の巣窟であるエデンでも、壊滅に追い込むことは出来るはずだ。
そして、これが成功すれば、真に平和な世界が創れる。
エデンの住人に罪はないだろうが、上層部だけを狙って一般人を狙わないという義賊のような行為をする余裕はない。だから、エデンごと破壊してしまおう。
時は来た。
作戦を実行に移す。
必ず成功する。
平和な世界を、創るのだ。
そう、思っていたのに。




