第三章 死力の再戦(12)
神原の体力は限界のはずだ。左腕を抉られ、瓦礫の下敷きになったのだ。当然、立っているのもやっとなはずである。
だが、彼は迫る敵を倒すために、残っている右腕を振り回す。
「あァァァァァァ!!」
咆哮は、痛みを誤魔化すためなのか。
「くそ、まだ動くのかよ!?」
黒神は体をのけ反らせて右腕を回避する。赤城のおかげで体力は回復した。光線を放ったことで再び体力を消耗したと言っても、神原よりは残っているだろう。
「俺は、隊長だぞ……テメェに負けるわけにはいかねェんだよ!!」
「俺だって負けるわけにはいかない! ここまできて、諦めるかよ!!」
黒神の『氣』が両手に集中する。
「そんな能力無駄だァ、もう当たらねェぞ!!」
「くそっ!」
拳に集まった白いオーラは神原の顔面に当たると、霧散してしまう。大した威力も出ず、黒神は逆に神原のカウンターを喰らう。
原始的な音が響き、黒神の体はノーバウンドで壁に叩きつけられる。
「がっ! あれだけのダメージを負って、この強さかよ……畜生!!」
「ははははは!! がふッ!?」
いくら神原が怪物だといっても、蓄積されたダメージは覆せない。彼は床に血を吐いた。
「はァ、はァ……うおォォォォォォォ!!」
神原は全身に力をこめて走り出す。迫り来る巨体を黒神は転がって回避したが、神原の後ろ蹴りが顔面に直撃し、また吹き飛ばされる。
「ぐあぁぁっ!!」
顔面が歪んでしまったのではないかと思うほどの威力。鼻の骨が折れたのか、呼吸がし辛くなってしまい、黒神は口から酸素を取り込む。
「どうすれば、こんな、怪物どうやって倒せば、いいんだ!」
酸素を取り込む際に、口の中には鉄の味が広がる。
「殺す、殺して、殺して……殺すッ!!」
神原に正常な思考があるとは思えない。彼は恐らく、黒神たちを殺す以外のことなど考えていないのだろう。
突進してくる神原に、黒神は逡巡した。
(転がってもまた蹴りが――)
結局避けることができず、黒神は巨体に直撃してしまう。
三度吹き飛ばされ、彼の体も言うことを聞かなくなってきている。これでは防戦一方になってしまう。
(集中しろ。焦るな、考えろ! 能力も通じない、力勝負じゃ敵わない。不意打ちはもう望めない。どうやってこの怪物を倒す!?)
いや、方法はある。ただ1つ、真っ向から神原にダメージを与える方法が。
「これで終わりだ、小僧ォォォォ!!」
チャンスは1度。次に神原の攻撃を喰らって立っていられる自信はない。だから、
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
バゴンッ!! と爆発音にも似た音が響いた。神原のタックルが黒神にヒットしたのだ。だが、この音の原因はそれではない。
床が破壊された音である。
「あ――!?」
黒神の体は神原の巨体によって吹き飛ばされた。そして、その神原の巨体は床の崩落と共に、下の階へと落ちていく。
黒神はタックルが当たる直前に、『氣』を纏った拳で床を殴っていた。その時点では黒神の体力の問題でヒビに留まったが、神原の体重がかかることによって遂に破壊されたのだ。
足場が崩落したため、神原のタックルの威力はかなり減少し、黒神はなんとか立ち上がる。
そして、彼は最後の力を振り絞り、空いた穴に向かって走り出す。
「がッ、くそッ……!!」
下の階の床に叩きつけられた神原は立ち上がろうと努力していた。だが、左腕が抉り取られたことによる激痛や、体力の消耗が重なりうまく立ち上がれない。
(ちッ、だがあの3人も同じだァ。一時休戦と言ッたところかァ? だッたら一旦逃げるのが正解かァ?)
しかし、仰向けに倒れている彼の視界に、予想もしていなかったものが映る。
「――ッ!?」
黒神終夜。
何度も神原に吹き飛ばされて、相当なダメージが蓄積しているはずの少年が飛び降りてきたのだ。
(まさか、最後のタックルは上手く決まらなかッたのか!? いや、だとしても自殺行為だ!!)
黒神は空中で拳を構えた。
『氣』を纏う必要なんか無い。いや、纏っていても結局は打ち消される。
だが、落下による威力の増加までは神原の『無効化』では打ち消せない。
もちろん、外れれば黒神は床に叩きつけられて命を落としてしまうだろう。当たったとしても、助かる保障は無い。それでも、彼は飛び降りた。
(少しでも可能性があるのなら、俺はそれに賭ける!!)
否、賭けるしかないのだ。ここで休憩を許してしまえば勝てないかもしれない。特に、神原に逃げられてしまっては今までの努力が全て無駄になってしまう。
(そんなことさせない。ここで決めるんだ。親友があそこまで頑張ってくれたんだからな!!)
高さはおよそ4メートル。
「神原ぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」
決着が、迫る。




