第三章 死力の再戦(9)
轟音が鳴り響く。
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
立っているのが精一杯の赤城は、神原の拳を避けるのに転がるしかない。
「ちょこまかと、いい加減死んどけやァッ!!」
赤城が立ち上がる前に、神原の拳が振り下ろされる。
何とか転がって回避するが、
「マジかよ……廃ビルとはいえ、パンチで床に穴空けるか普通」
神原の拳は床を突き抜けていた。この威力のパンチを何発もくらうわけにはいかない。さっき殴られただけでも相当なダメージを負っているのだ。
「ッたくよォ、勝負はこれからだとか言ッておきながらこの程度かよォ!?」
拳を振り下ろし、かかと落としをして、また拳を振り下ろす。神原はとにかく手を休めない。一瞬の隙も与えぬよう、追撃を続ける。
その思惑通り、赤城は転がって避け続けることしかできない。辛うじて炎で攻撃するが、全て打ち消されてしまう。
(くそっ、もう瓦礫を使うこともできない! あんな能力チートだろ!!)
「言ッとくがよ、これでも隊長なんだ。この能力だけじゃ足りなくてな。肉体の強化は大変だったぞ」
隊長としての責任。神原も、根は悪人ではないのだろう。そうでなければ、能力に加えて肉体強化までするはずがない。能力を打ち消す能力を持っているのならば、肉体強化など必要なく、ただ隊長と言う地位でふんぞり返っていればいいのだから。
赤城はそのことを感じていた。そして、感じたことがもう1つ。
(今、あいつ――とんでもない事を言わなかったか!?)
そう、彼自身こう言った。
――この能力だけじゃ足りなくてな。
足りない。能力を打ち消す『無効化』では足りない? いや、そんなはずはない。現に、赤城の『永遠の炎』は全て打ち消されてしまっている。
弱点だと踏んでいた頬も狙ってみたが、やはり打ち消された。
そんな強力な能力なのに、なぜ誇らない。
(弱点はある。あるんだ! それも、恐らく致命的な弱点が……)
そもそも、『無効化』が完璧なものであるならば部隊の到着を待つ必要は無い。彼1人でエデン破壊とまでは行かないだろうが、仲間が到着するまで戦うことは可能だろう。朝影もいるとなればなおさらだ。
(一体なんだ、何が弱点なんだ!)
打ち消せなかった黒神の1発目の光線。そして、部隊で揃わなければならない作戦。『無効化』では足りないこと。
そこから導き出される答えは?
「なに考えてんのか知らねェが、そんな余裕あんのかァ!!」
神原は容赦なく攻めてくる。片目は全く見えていないはずだが、彼の攻撃は正確だ。避け続けるのにも限界がある。
(やるしか、ないか!)
赤城は左足の痛みを堪え、神原の攻撃を飛び跳ねるような格好で避け、距離をとった。
「当たれ……」
そして、赤城は床に向かって炎を放出する。炎は床を突きぬけて、下の階へと消えていった。
「何がしたかッたんだァ!?」
そう言いながら、神原はなんとか立ち上がる赤城に向かって突進していく。赤城の体力も少なくなってきた。ここで勝負を決めるつもりだろう。
「死ねよ能力者ァァァァ!!」
だが、その直後。
ブシュオッ!! という音と共に下の階から床を突き抜けて炎が噴きあがり、神原の背中を『かすめた』。
「がッ!? テメェ!!」
(くそっ、狙いが外れたか!! でも、当たった。やはりそうだ! こいつの、神原の『無効化』の弱点は――!!)




