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第三章  死力の再戦(8)

 威勢よく叫んだものの、赤城は動けずにいた。


(左足が動かないだけでこんなにも違うのか……)


 足っているだけでやっとの状態である。対して、神原は左目を潰されただけ。もちろん激痛は走っているだろうが、動けないわけではない。

 結果は誰が見ても予想できるだろう。だが、それでも彼は親友のために、諦めない。








 赤城と神原の戦闘が始まった直後、黒神は息を整えながら、壁にもたれかかったままこちらを見ている朝影に近づいた。


「朝影、大丈夫か!?」


 彼女はボロボロだった。神原から相当な暴力を受けたに違いない。


「……どうして、来ちゃうかな。このまま何も起きなければ隊長は私を許してくれたのに」


 皮肉を言ってはみるものの、朝影の表情は緩んだままである。それに気づいた彼女は、咄嗟に黒神から顔をそむける。


「朝影、やっぱり神原の能力は……」


 黒神は朝影の表情を見ておらず、彼女の表情の変化に気づいていないようだ。そして、赤城の炎が打ち消されたところを見て、朝影に尋ねる。

 朝影は傷だらけの頬を少しだけ膨らませたが、


「そう、能力を打ち消す能力よ。だから、あの時あのタイミングで放った貴方の光線も当たらなかった」


 『無効化(ナッシング)』と彼女は言った。


「その上にあの身体能力、どう立ち回ればいいんだよ……」

「もし、彼の能力に穴があるとしたら」

「え?」


 朝影の顔は真剣だった。真剣に何かを考えている。


「どうしても気になるの。貴方が隊長と戦った時のこと」


 傍から見ても、あの戦いは神原の一方的な勝利だった。だが、そんな一方的な戦いの中でただ1つ、注目すべきことがある。

 それが、神原の頬をかすめた1発目の光線だ。


 あれ以外は神原にダメージを与えられなかった。逆に言えば、あの時だけは神原にダメージを与えることができたのだ。それも、能力を使用した攻撃で。

 『無効化』は相手の能力を打ち消すもの。実際、朝影も黒神も、そして今は赤城も自身の能力を打ち消されている。


「そこに、鍵はあると思うの。それさえ分かれば、隊長に勝てる可能性が出てくる」

「あの時……か。無我夢中だったからあんまり覚えてないな。ただ、神原が後ろを向いてたからチャンスだ! とは思ったけど。ほら、もう殆ど絶望的な状況だったからな」

「――っ!! まさか、そういうことなの!?」


 朝影は終夜の台詞を聞いて、痛みも忘れて大声を出した。


「そういうこと……?」


 体を引きずり、彼女は黒神に顔を近づける。


「これは、あくまで推測。でもこれしかない。よく聞いて」

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