第一章 束の間のあれこれ(2)
留置所、それは裁きを控える者の待機所と言えるだろう。ホープのそれはエデンの中でも最大級の施設であり、故に入っている人数も多い。となれば、面会を希望する数も相応にある。
ここには複数の面会室があるものの、それでもそう簡単には面会出来ない。事実、ある人物と面会しに来た藤原創という少年は1時間待たされた。
ストレートの金髪に柔和な黒眼。中肉中背のイケメンは少し疲れたような表情で、ガラスの手前に置いてある丸椅子に座る。
「ここまで待たされて、持ち時間は30分とかふざけてるよなぁ……」
当然、藤原は何故このような事態になっているのか分かっている。
大きな事件があったからだ。藤原はその当事者。そして、その事件を起こした犯人が全員捕まったわけではない。更に言えば、犯人グループはより大きなグループに所属していると見られ、今後彼らがエデンを攻めてくる可能性もある。
確かにここに入っている人間は犯罪を犯した者ばかり。されども、彼らとて一人間。家族がいて、友人がいる。そう、彼らの身を案じる人もいるのだ。
ホープ内の学校が襲撃されるような大事件が起き、皆心配なのである。
とはいえ、藤原はそのような類ではない。ここに来た目的は、ある人物から話を聞くためだ。
彼が椅子に座ってから少しして、強化ガラスで隔てられた向こう側の部屋に1人の女性が入ってきた。
白一色のジャージに身を包んだ、少し乱れた長いストレートの黒髪。左目を赤い眼帯で隠している隻眼の彼女の強調された胸は異性の目どころか同性の目すら惹きつけることができるかもしれない。
やつれた顔の美少女は俯きながら、椅子に座った。
「やあ、4日ぶりだね」
息を整え、藤原は優しく声をかける。しかし、その声に目の前の女性は体をビクッ! と震わせる。
「……やっぱり傷つくなぁ。大丈夫だよ、このガラスは今の僕じゃ壊せない。それに、君に危害を加える気も無い。少なくとも今は、敵じゃない」
「本当だな……?」
あの襲撃のときからは予想も出来ないほどの小声。割と本気で怯えているらしい。
上目遣いで尋ねてきた女性に、藤原は苦笑しながら頷く。
「……さ、最初に言っておく」
「え?」
「私は、私は……貴様が大嫌いだ!!」
「ええ……」
涙目で訴えられては、嘘か本当か疑うことも出来ない。ショックを受けながらも、藤原は口を開く。
「さて、時間が無いから手短に。多分、新庄さんにとってもそれがいいだろう?」
「……助かる」
「まず1つ目、もし君たちの襲撃が成功していたらその後はどう動いてた?」
これは、エデンの治安維持部隊のリーダーである神原という男からも同じことを聞かれたらしい。その胸を伝えながら、彼女はゆっくりと話し始める。
「私たちは『管理者』のいる建物を占拠する手筈だった。そこにある『セカイ』という装置を破壊……エデンの機能にダメージを与える。ここまでが仕事」
「『セカイ』のことはどこまで知ってた?」
「恐らく、全部」
「確かに、あれが破壊されたらエデンは反撃すら出来なくなる。でも、それじゃ完璧ではなかったはずだ」
「……だから、最初にあの学校を襲った」
「黒神終夜を殺すために?」
静かに頷く。
「完璧な作戦は、奇しくもその黒神終夜をはじめとする学生たちの反抗によって阻止された。ここまでの認識は合ってるかな」
「ああ、その通りだ」
「じゃあ2つ目の質問だ」
「……?」
藤原は真剣な眼差しで女性を見つめる。彼女は縮こまりながら彼の言葉を待つ」
「あの作戦が失敗した時の、所謂Bプラン的なものはあったのかい?」




