第三章 死力の再戦(4)
「なァ、光よォ」
神原は不安定な椅子をギコギコと鳴らしながら朝影に話しかける。彼としても、ただ待っているだけなのは暇なのだろうか。
「どォしてあの小僧の味方をしたんだァ? テメェは『楽園解放』の中でも過激派だッたじゃねェか」
朝影は動くと傷が痛むのか、壁にもたれかかったまま口だけを動かす。
「分からない……でも、彼の中に微かに、感じた……希望を」
「はッ、希望ねェ。俺らの中には感じなかッたッてことかァ? だッたら悲しい話だなァ」
「……エデンを壊せば、何の罪もない人たちまで巻き込まれる。私は、そんなの嫌」
「なるほどねェ。まあ確かにそうだわな。けどよォ、革命に犠牲は付き物だ。それに……それくらいやらねェと実験は潰せねェ」
そう、神原も最大の目的は実験の停止なのだ。エデン破壊はそのための手段にすぎない。リーダーである彼がそうなのだから、『楽園解放』の基本方針もそうなのだろう。
朝影は感じていた。方法こそ違えど、実験停止という目的は同じなのだと。
だからこそ――
(本当は、協力できるはずなんだ。私が彼に希望を感じたように、隊長だって彼に希望を感じるはず……罪
無き人間を巻き込まずに実験を停止させられる、希望を)
「隊長……どうしても、ダメなの」
「協力のことかァ? はッ、あんな雑魚に何が出来る。テメェを倒したかもしれねェが、あの程度じゃァ治安部隊にすら勝てねェな。結局、理想論なんだよ。あいつらを倒すにはエデンを破壊して混乱させるしかねェんだ」
「希望は――」
「ねェよ」
平行線。いや、実際に黒神を圧倒した彼だからこそ言えるのだろう、あれでは足りないと。
「せめて、俺を倒せるくらいの実力は必要だ。まァ、能力対決で俺が負けるなんて考えられねェがな」
虚言ではない。これまで積み重ねてきたキャリアから、客観的に判断した結果だ。
能力を打ち消す能力。考えてみれば、これほどチートじみた能力は無い。おまけに、彼の元々の身体能力もずば抜けている。
多対一ならまだしも、一対一で勝てるはずがない。
(でもそれは、隊長の能力が『完璧』なものだったらの話)
敗北の直前に黒神が放った光線は、確かに神原の頬をかすめた。そう、当たったのだ、能力を打ち消す能力を持った神原に。
つまり、彼の能力には穴がある。そこさえ突ければ、勝機はある。
(能力に『完璧』なんか無い。穴がある以上、勝てる可能性はある。だったら諦めない……私は彼を――黒神を信じる)
ボロボロの朝影には神原に立ち向かうことなど出来ない。せいぜい出来るのは、そのままの体勢でなけなしの能力を使うことくらいだ。それでは、打ち消されてしまう。
結局のところは、朝影にはもう何も出来ない。だから、祈るしかない。彼が来ることを。
もし黒神が、完膚なきまでに叩き潰されても尚立ち上がり、再び神原の前に現れるならば。
(彼は、やはり――)
『英雄』は、どんな時でも立ち上がるものだ。




