第四章 介入、それが引き金(8)
「報告にあったのはこの辺のはず――うおっ!?」
戦闘機を操縦していた黒神は目の前に広がる光景に言葉を失った。機体を滞空させ、自動操縦に切り替える。そして、操縦席を離れた彼はすぐ後ろに乗っている上月と来栖の所へ。
「おい大河ちょっと外見てみろ」
促し、上月を操縦席に連れて行く。操縦席は1つだけのため、来栖は待機していた。
「……これ、どう考えても銃の撃ち合いの結果じゃないよな」
「ああ、どんな戦場でもここまでの被害は見たことがない。戦術兵器や航空機が投入されたっていう情報はないから、あと考えられるのは……」
抉れた大地。散乱している戦車らしきものの残骸。そして、大量に転がっている人の死骸。
死体は片方の軍だけではない。ルーシー軍及びアマリア軍双方共に壊滅させられている。
「両軍共にっていうのがミソだな。大河、俺の言いたいこと……分かってくれるか?」
操縦席に座っている上月が唾を飲み込んだ音が聞こえた。恐らく、理解はしているはずだ。対立する2つの軍が両方とも壊滅状態ということは、必然的に第3勢力が現れたと結論付けられる。
では、その第3勢力とは一体何者なのか。
その答えを彼らは知っている。
「あの報告があってからそこまで時間は経ってない。まだ近くにいるはずだ。どうする大河」
「どうするも何も、やることは決まってる。それより、あいつらが徒歩で移動しているという確証があるのか?」
あの2人。黒神にはそのうち1人の姿しか想像できなかったが、もう1人の正体は分かっている。そして、彼らが航空機で移動していないということも。
「中将は腐ってもベテラン兵士だ。いくら超能力者が無双してても、ヘリで滞空すれば撃ち墜とされる危険性があることくらい分かってるはずだ。だから、絶対に別の場所に移動している。安全な場所から、自分の手は汚さずに事を終わらせ、高らかに名乗り出るつもりだろうな」
軍に従属している彼だからこそ、否、首謀者である新木という人物に育てられた兵士である彼だからこそその思考が読める。
だが、決して嬉しいことではない。寧ろ悲しく、悔しく。
「安心しろ。中将は俺が止める。ついでにお前ん所の所長もだ。だから大河たちは……」
「ありがとう天明。お前と知り合えて良かったよ」
「お、おいおい……照れるだろ。いいか、絶対に2人を止めて木霊を連れて帰って来い。またみんなで、あの研究室で楽しく話そうぜ」
男たちは互いに笑ってみせる。強がりかもしれない。儚い希望かもしれない。
だが、それを口にすることで自分を奮い立たせることは出来る。拳を突き合わせ、意志を確認。2人は来栖が待機している機体の後方へと戻った。
その際、黒神は機体の高度を落とすよう自動操縦に命令する。
戻ってきた2人を来栖は、面白く無さそうな目で見つめてきた。
「いいですね、男の友情って」
ジトっと向けられる視線は2人に注がれているようで、実は片方のみにしか向いていない。男たちは気付かなかったようだが。
「さて、ここでそれぞれの目的のために分岐するわけだが……これを持ってけ」
そう言って、黒神は缶バッジのようなものをポケットから取り出した。それを来栖に渡す。
「発信機だ。お前たちの場所がすぐに分かる。壊れたら困るから、これは来栖が持ってろ」
これから起こるのは超能力者同士の戦闘。当事者が持っていてはすぐに壊れてしまうだろう。だから戦わない彼女に渡した。
「……みんなで戻ろう。あの部屋に」
神妙な顔でそう語った黒神。だが、
「つっても、天明は研究所の人間じゃないけどな」
「黒神さんだけ仲間はずれですね」
「お、お前ら……人が折角良いこと言ったってのに!!」
「良いことって自分で言っちゃうのはどうかと思うぞ」
「同感です」
「この……はぁ、分かったよ。行ってこい!」
ここで上月と来栖が真面目に返してこなくて良かったと黒神は思った。緊張感がないと言われればそこまでだが、そんなものあっても、体が強張るだけである。ならば、笑顔で誓った方がいい。
もう1度会おう。
彼らは最後まで笑っていた。
そして、上月と来栖の2人が戦闘機から降りる。地面スレスレで止まっているから、少しジャンプすれば降りられる。
それぞれの目的のために。
同じ思いを胸に抱いて。




