表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
276/311

第四章  介入、それが引き金(6)

 7月12日某時刻。

 ルーシー連邦、最前線。凍えるほどの寒さの中、ルーシーの兵士たちはアマリア軍と激しい戦闘を行っていた。


 銃弾の雨、時折戦車から砲弾が飛び交う音も響いている。響くだけならばいいのだが、いくつかの砲弾が自分の近くに落ちてきて体を吹き飛ばされたり、それを避けようとして流れ弾に当たってしまったり。


 戦争は地獄だ。ほんの一瞬気を抜いただけで死に直結する。仲間も大勢死に、心が折れて大の大人であるにも関わらず泣き喚く者もいる。


 お母さん、お母さん――どこからともなく聞こえてくる言葉。

 それは、ルーシー軍に限った話ではない。アマリア軍でも同じ状況が起こっている。


 それでも戦わねばならない。銃を持ち、引き金を引かなければならない。

 自分が悲しむ代わりに、他の誰かを悲しませる。自分が死ぬ代わりに、他の誰かを死なせる。


 戦車のキャタピラが、半ば凍っている大地を小さな岩諸共踏み潰していく音がする。その姿を見たものは、死を悟る。


 だから、対抗するためにこちらも戦車を出す。

 戦況は拮抗していた。しかしそれはルーシーにとって良い状況ではない。ここはルーシーの最前線防衛ライン。


 つまり、彼らの全戦力がここに集中しているのである。対して、アマリアはまだ余力を残している。ここで拮抗しているということはすなわち、戦力差が開いているということだ。


「くそっ、まだ後退指示は出ないのか!!」


 ルーシー軍の誰かが叫んだ。


「このままじゃ全滅だぞ! 司令部は何考えてるんだ!?」


 また、別の誰かが。

 希望を叫ぶことでしか、誰かを糾弾することでしか自我を保っていられない。もし後退指令が出ず、戦い続けることになったら彼らは発狂してしまうだろう。


 次の瞬間、空から轟音が響いてきた。

 誰かが、味方のヘリが航空支援に来てくれたと叫ぶ。別の誰かは、あれはアマリアのヘリだ、追撃をしかけに来たんだと慄く。


 しかし、どちらも正解ではなかった。

 ちょうど向かいあうルーシーとアマリアの中間の位置で滞空し始めたヘリから、2人の人間が振ってくる。


 彼らは黒いローブで全身を覆っていた。そして、さらにローブを白い光が包み込んでいる。

 かなりの高さから落下してきた2人は、大怪獣でも降ってきたかのような音を響かせて着地。ほぼ氷と化した雪が、その衝撃で大量に舞い上がった。


 背中を向け合い、片方はルーシーを、もう片方はアマリアを視界に入れた。

 手をかざし、白い光線を発射する。


 両軍共に、何が起こったのか分からなかった。事態を認識したときには、既に両軍の戦車が木っ端微塵に吹き飛んでいた。


 恐れを感じたアマリアの兵士が彼らに向かって発砲するが、白い光に銃弾が当たった瞬間それはひしゃげてしまい、地面に落ちる。


 何発撃っても、結果は変わらない。

 最早、ルーシーとアマリアの対立など誰も気にしていなかった。


 突如として現れた2人に向かって、両群共に攻撃を仕掛ける。

 だが。


 彼らは全く傷を負うことなく、数分で両軍を鎮圧。

 夢でも見ているのか。


 あるルーシー軍の兵士は後に、この出来事をこう表している。



『あれはまるで、神の化身のようだった』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿開始しました→「風と歌と勝利のΔ(ラブ・トライアングル)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ