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第四章  介入、それが引き金(1)

 喉に突き刺さる衝撃。

 気付いた時には、自分の体が後方の扉に叩きつけられ、口から粘りのある液体が吐き出された。


「かっ……!?」


 ようやく事態を認識した上月は、自分の首に誰かの手が突きつけられていることに気がついた。いや、誰かのではない。これは、目の前にいる上月のクローンが伸ばしている手だ。


 クローンは片手で上月を持ち上げ、もがく彼を蔑むように上目で見つめた。


「この、は、な……せっ!」


 クローンは何も語らない。

 ただ、上月の首を握る力だけが強くなっていく。そんなクローンの体は、白いオーラのようなものに包まれていた。


 これが、超能力の表れなのだろうか。

 いや、今はそんなことを気にしている暇などない。


 上月は両手でクローンの片手を解こうとするが、微動だにしない。そこで、顔をぐちゃぐちゃにしながら宙ぶらりんの両足を動かした。


 1度、2度。

 前から後ろへ、後ろから前へ。ブランコのように両足を動かして勢いをつけ、


「この、くそっ!!」


 クローンの顔面に一閃、上月の靴の先が突き刺さった。

 だが、首は解放されない。寧ろ、さらに力が強くなっている。


 そう、攻撃を受けたはずのクローンはケロッとしていたのだ。傷も付かず、綺麗な顔のままで。

 そしてクローンは上月をカプセルの方へと投げ飛ばす。響くは轟音。カプセルに激突した上月は必死に酸素を取り入れようとした。


「ひゅっ……がはっ!! はっ、はっ……ちく、しょう……」


 蓋が開いたカプセルの中に入り込んでしまった彼は、まだ体が十分に動かせない。呼吸だけで精一杯。

 だが、クローンは容赦なく。


 引きずり出される。

 白衣の襟を握られ、今度は床に叩きつけられた。


「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ワンバウンドした彼の体は宙で一回転し、そのまま仰向けに落ちる。


『おい上月大河、これではデータが取れん。貴様も攻撃しろ』


 別の場所にいるであろう新木の声がスピーカーを通して聞こえてくる。それは冷淡で冷酷で冷徹で。

 最早、上月の体は少しでも動かせば痛みを感じるまで至っている。そうでなくとも叩きつけられた場所は焼けるように熱く、どくどくと脈打っているのが分かる。


 死ぬのか。

 突然訳の分からないことをさせられて、何も出来ずに死ぬのか。


(……運動、しとくんだったな)


 全てを諦めようと思ったその瞬間、支倉がこんなことを言ってきた。


『大河、君がダメなら次は木霊だぞ』


 その言葉が、上月の心に火を灯す。怒りという名の、火を。

 内から沸々と湧き上がるそれは、白きオーラとなって外に現れた。それは上月の全身を包み、彼に立ち上がる力を与える。


 クローンと同じ超能力。来栖の理論を支倉が盗用しているのなら、『氣』というもので間違いはないだろう。


 なんにせよ、上月は立ち上がった。まるでゾンビのようにふらふらしながら。

 その姿に、クローンは1歩退いた。


「あいつらに手出しはさせない……絶対に!!」


 上月の感情に比例するように、白いオーラは巨大になっていく。遂には、クローン以上に。

 大切な人を、大切な場所を守るための孤独な戦い。


 上月はクローンを睨み、そして突進した。

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