第三章 死力の再戦(2)
黒神と赤城は一旦、自宅へと戻っていた。といっても、2人は同じマンションのしかも隣部屋同士なので、結局帰路は同じである。
「ま、無事退院できてよかったな」
「骨折って1日で退院って、なんか不思議な気分だよな」
「そうか? 能力者同士の戦いじゃ骨折なんか普通だからな。そんな傷くらい1日で治してもらわなきゃ困るぜ」
骨折を普通とか言っちゃう辺り、能力者の過酷さを感じる。
つまり、退院許可が出たのも赤城にとってはなんら不思議なことではないのだ。
(なんか、能力者の闇が見えた気分だ)
「なあ終夜、お前の能力見せてくれないか?」
「ん、ああ、分かった」
黒神は右手に意識を集中させる。すると、たちまち白いオーラが彼を包み込んだ。
「オーラ、ねぇ」
オーラについては、赤城も知っていたらしい。というか、授業で習ったようだが黒神はまったく覚えていなかった。
「終夜ってさ、その能力使うときは右手から入るのか?」
「いや、多分そんなことしなくてもいいんだと思うけど……しっくり来るんだよ」
そうこう話しているうちに、2人は自宅へと到着した。赤城はすぐにそっちに行くと言い、自分の部屋に入っていった。
黒神も自分の部屋へと入る。
(……勝てるんだろうか)
覚悟は決めたものの、やはり神原への恐怖は消えない。あれだけボコボコにされて、与えたのは頬のかすり傷だけ。
今度は赤城も一緒に戦ってくれるとはいえ、その赤城ですら負けてしまうかもしれない。なにせ、神原の能力は、相手の能力を打ち消してしまうものである可能性が高いからだ。
いくら赤城が強いと言っても、能力を封じられてしまえばその強さも意味が無くなってしまう。
(単純な力比べだと、やっぱり勝ち目は無い……よな)
神原の能力はまさに彼に合った能力だろう。
(それに、神原がいる場所も……)
恐らく、エデン内にいることは確かだろう。だが、それがどこなのかは分からない。モタモタしていては、『楽園解放』のメンバーが全員揃ってしまう可能性もある(もちろん、もう既に揃っているのかもしれないが)。
事態は急を要するのだ。
それに、『楽園解放』のエデン破壊が始まって、警察と戦い出してしまったら朝影を救出するという目的が果たせなくなるだろう。
(タイムリミットは今日中……いや、長く見ても明日までか)
赤の他人から見れば、どうしてたった1人の少女のために、国家レベルの問題にまで踏み込んだりするのかと思うかもしれない。
だが、彼はこう答えるだろう。
――彼女を、助けたいからだ。
それ以外の理由がいるだろうか。否、これで十分だ。
たとえ国家が関わる問題だとしても、自分の命がかかっているとしても、それでも朝影光を助けたい。
それだけで、十分だ。




