第三章 死力の再戦(1)
エデンの最大都市とは言えど、ホープの端のほうには廃ビルくらい存在する。
原型を留めていないテーブルや椅子、引っ掻き傷のようなものが多数刻まれている朽ち果てた壁。悪臭がしないのが不思議なくらいだ。
そのビルに、2人の人間がいた。1人は黒いスーツを着た、30代くらいの大男。もう1人は、長いストレートの青髪の少女。
『楽園解放』の隊長である神原嵐と、そのメンバーの朝影光である。
朝影はどこかの学校の制服を着ているのだが、それは所々破れていたり、土汚れが付いていたりとボロボロだ。同時に、彼女の整った顔も、傷だらけで黒神との戦いのあとに張っていた絆創膏も剥がれ落ちている。
「つーわけでよォ、今動けるのは俺とテメェだけなんだ。この期に及んで抵抗なんかしてくれるなよ。じゃ、作戦の確認だ」
そう言うと、神原は壁にもたれかかってぐったりと座っている朝影に近づく。
「あー、殴りすぎたかなァ? まァいいか。意識はあんだろ」
朝影は目だけを動かして、神原を見る。
「とりあえず、他のメンツが揃うまではここで待つ。向こうでも想定外のことが起こッてるらしくてなァ……世の中思い通りにはいかねェものだな」
「……想定外?」
「あァ、どォやらエデンの刺客に気づかれたみてェでな。対処中だ」
外界からエデンには入れなくても、エデンから外界には出れるらしい。目的は様々で、エデン破壊論者の鎮圧や、外界の情報収集、現首相との対談などだ。
「ッたく、さすがにエデンも馬鹿じゃねェかァ」
外界へエデンが刺客を送り込んだということは、当然エデンにいる神原と朝影も危険だということになる。
「大丈夫だ、ここは見つからねェ。今は、な」
「た、い、ちょう」
「なんだ? ボロボロだと話にくいか?」
「……隊長の、能力って……」
朝影にはある検討がついていた。だから、これは答え合わせである。
神原は特に不審がるでもなく、自分の能力について話す。
「テメェも見ただろ、最後のアレ。ま、そういうことだ。俺の能力は『無効化』、相手の能力を打ち消すんだよ」
そう、神原は公園でまったく能力を使っていなかったわけではない。寧ろ、ずっと使っていたのだ。だから、黒神の『氣』を纏ったパンチも素手で止めることが出来た。
(能力を無効化するだなんて……そんなの勝てるわけがないじゃない)
改めて、神原という男の強さを実感した。彼は、黒神終夜は、知らなかったとはいえこんな男と戦っていたのか。
「今はゆッくりしとこォや。エデン破壊の大命は、焦ッてやるもんじゃねェしな」
神原は、スーツが汚れるのを気にしたのか、辛うじて座れる椅子を持ってきて埃を払って座った。
時が流れていく。ゆっくりと、だが、確実に。




