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第二章  場が整う時、全ては動く(7)

 7月6日月曜日。

 研究室に入ってきた美しい青髪の女性、木霊芽衣は目の前の光景に青筋を浮かべていた。それさえも魅了の要素としてしまう彼女であるが、その心中は穏やかではないようだ。


 それもそのはず。

 何せ、昨日ゆっくり休んだから今日は頑張ろうとはりきっていた彼女がドアを開けた瞬間、そこには以下のような状況が存在していたのだから。


 つまり、幼馴染の上月が床に仰向けで倒れており、その体(厳密には彼の下腹部)の上に後輩の来栖が跨って、両手を上月の顔を囲むように置いたまま鼻と鼻が触れ合いそうな距離まで整った顔を近づけている。


「さあ先輩、覚悟を決めてください!!」

「おい馬鹿、止めろって!!」


「大丈夫ですよ、違和感は最初だけですから!」

「そういう問題じゃ――」


 ふと、上月の顔が入り口に向けられる。釣られて、来栖も。

 そして、2人は同時に声を漏らした。


『あ』












「で、これは一体どういう状況なのかしら?」


 腕と足を組んで椅子に座っている彼女が見下ろす先には、正座をして小さく収まっている2人の科学者。しかもその周りには散らかった書類付き。何とも異様な光景である。


「ちょ、ちょっと待ってくれ芽衣。俺は被害者なんだ!」

「そういうことを聞いてるんじゃないの。ど・う・い・う・こ・と・な・の?」


 顔は笑顔だが、透き通るように綺麗な黒眼は笑っていない。まるでゴミでも見ているかのようなそれは、上月に目をそらすことを許さない。


「う……その、芽衣が来る数分前の話だ」


 内容はこうだ。

 いつも通り研究室に来た上月は荷物の移動のために早めに来ていた来栖と遭遇。


 すると、来栖が自分の使っている香水を自慢してきた。どうやらそれは男女両用であるらしかったが、全く興味を示さなかった上月が面白くなく、それを使うよう強要してきた。


 彼が拒否していると、力尽くで香水を付けようと考えた来栖が彼を襲撃。

 来栖の突進をかわそうとした上月だったが、床に散らばった書類のせいで足を滑らせる。その際、思わず来栖の白衣を掴んでしまい、諸共倒れてしまった。


 あとは、先ほどの光景通りだ。諦めない来栖が上月に迫っていた。これが事の顛末である。


「……はぁ、なんでそんなしょうもないことを」

「俺に聞くな。そこの後輩に聞いてくれ」


 木霊の視線が、上月の隣にいる来栖に向けられる。小動物のようにビクビクしている彼女は、目を伏せながら動機を語った。


「わ、私はただ、2人をくっつけようと思って……芽衣ちゃんがいつも言ってるから……」


 それを聞いた木霊の顔が突然赤くなり、椅子から飛び降りて来栖の肩を激しく揺さぶった。


「ちょ、ちょちょちょ、恵!! あれは……!!」

「芽衣、何を言ったんだ?」


「え!? いや、別に何も!」


 直後、親猫が子猫を連れて運ぶように来栖の襟を掴んだ木霊は研究室から後輩を強引に連れ出した。


 呆気に取られる上月だったが、立ち上がろうとした瞬間に痺れた足に電撃が走ったため後を追うことは出来ず、痺れに耐えるためその場に蹲っていた。

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