第四章 明日へと繋ぐために(7)
「何だよ終夜、父親が見舞いに来てやったってのにこんな可愛い女の子連れ込んでたのかよ……」
黒神の父親である黒神一成は、ベッドを挟んだ反対側で慌てている早織を見てニヤニヤしていた。
手に提げていた袋をベッドの隣のテーブルに置き、彼は近くにあった背もたれ付きの椅子に腰掛ける。手袋は外したものの、トレンチコートは脱がないようだ。
「親父、何で……!?」
「あん? そりゃ、息子が何回も入院してるなんて聞いたら流石に来るだろ。逆に何で来ないと思った?」
一成は肩をすくめ、首を横に振る。
黒神は早織を一瞥したが、彼女は丸椅子に座り口を固く結んでいる。落ち着きは取り戻したものの、気まずさに耐えかねているようだ。
「母さんも心配しててな。様子を見に来たんだよ。それに、お前には言わなきゃならないことがある」
「……言わなきゃならないこと?」
一成は顎をポリポリと掻き、咳払いをした。そして、爽やかな笑顔で俯いている早織に向かって言う。
「お嬢ちゃん、悪いけど少しだけ席を外してくれないか」
「え、あ……はい」
怪訝な顔をしながらも、早織は言われた通り病室から出て行った。
ドアが閉まる音が聞こえると、一成は肘を膝を上に置き、体を少し前に倒しながら、
「終夜、まずは何があったか話してみろ」
父は真剣な表情をしていた。そして、息子の顔をしっかりと見ている。
黒神は今までのことを全て話した。説明が上手く出来ない所もあったが、時折頷いてくれる一成の顔を見ていると不思議と安心でき、話を続けることが出来た。
全てを聞いた一成は天井を仰ぎ、大きく息を吐く。
「親父?」
「……そうか、始まったのか」
「始まった?」
「終夜、今からする話をよく聞いてくれ。多分お前は不快感を覚えると思う。だが、少しだけ我慢して、最後まで聞いてくれ」
黒神が頷くと、一成はゆっくりと言葉を吐き出した。
「実はな、お前がこうなることは分かってたんだよ。お前が生まれた時……いや、生まれる前からな」
こうなる、とは一体どうなることを指すのか。
一瞬困惑した黒神だったが、すぐに一成の言葉の意味を理解した。
「俺が、巻き込まれることがってことか?」
「ああ。まあ、俺が知ってた状況とは少し違うみたいだが」
つまり、一成は黒神が『第四次世界大戦』を巡る事件に巻き込まれることを事前に知っていたのだ。
その理由は。
「詳しいことは、後で『管理人』にでも聞いてくれ。俺から話せるのは、簡単なものだけだ」
「どういう……」
「話は、お前の爺さんから始まるんだよ」
「爺ちゃんから……?」
黒神の祖父、つまり一成の父親は6年前に他界している。享年は、76だ。
「もっと分かりやすく言うなら、『第三次世界大戦』。全ては、そこから始まる因縁だ」
親子の会話はその後、20分ほど続いた。




