第四章 明日ヘト繋グために(5)
「来たぞ。貴様ら、画面見てろ」
デバイスを操作していた闇野は突然立ち上がり、赤城と氷川の後ろにある白い壁にその画面を拡大して映し出した。
そこは何処かの部屋のようだった。壁は白一色で、家具などは見当たらず、空中に様々な人間の顔やプロフィールのようなものが映し出された画面が無数に表示されている。
そして、そんな部屋にスーツ姿でショートカットの少年と、白衣で綺麗なロングストレートの黒髪の女性の姿が。
画面をじっと見つめていた赤城は思わず声をあげた。
「終夜!? い、一体どういうことだ! なんでSPみたいな格好を……」
「黙って聞いてろよ。ちなみに、あの女が『管理人』だ」
2人の会話は、鮮明に聞こえてきた。
『「セカイ」の役割は、運命の管理。デバイスを持つ者全ての運命を管理しているのです』
恐らく、この言葉の前に『セカイ』という単語について説明が為されたのであろうが、赤城たちはそこを聞けなかった。よって、『セカイ』が何なのかは分かっていない。
『お察しの通り、全ての画面は1人1人のデバイス所持者に対応しています』
その後、『管理人』は運命の操作について語った。その話を聞いた少年の顔が分かりやすく引きつった。
『じゃあ、俺たちの行動は全部お前たちに決められてたってことか?』
『否定はしません』
『……朝影と出会ったことも、「楽園解放」と戦ったことも、「二重能力試行実験」も全部?』
『いいえ、違います』
会話によると、『セカイ』とはデバイスを所持している者の運命を操作出来る代物らしい。映像の中にいる少年が関わったとある事件も、『セカイ』によって操作されていたようだ。
とはいえ、どうやら全ての事象を操作することは出来ないらしい。所謂、きっかけ作りのみ。
赤城に当てはめるならば、神原と戦うきっかけこそ作られど、その戦いに勝つか否かやその後『裏』に行くか否かまでは操作出来ないということだ。
スーツの少年は片腕を横に振り、白衣の女性に対して喚くようにして言う。
『だとしても、月宮たちの犠牲は消えない! お前たちの目的が世界大戦である以上、俺はお前たちを――』
女性は彼の目をしっかりと見つめ、下腹部の前で両手を組み、低いトーンでゆっくりと告げる。
『そこが、最大の間違いなのです』
『……一体どういうことだ?』
間があった。そして『管理人』は少年に向かって、
『――私たちの目的は、第四次世界大戦の阻止です』
その言葉を聞いた瞬間、赤城と氷川は唾を飲んだ。
もちろん、画面の女性が本当に『管理人』であるかは分からないし、そうだったとしても真実を言っているとは限らない。
だが、現状を考えると。
画面の少年の顔は更に歪み、今にも発狂しそうになっている。
『貴方がしてきたことを批判するつもりはありません。ですから、理解してください。私たちは敵ではありません』
ふと闇野の方に顔を向けると、彼は欠伸をしていた。赤城の視線に気付くと、彼はニヤリと笑う。
これが、闇野が見せたかったもの。わざわざ赤城たちを呼び出した理由。
虚構の反転。
ようやく見えた真実の世界。
それを信じるか否かは、本人次第。
だが、全ての終幕はもうすぐそこに迫っている。
決断に、猶予は無い。
この映像の3日後、スーツの少年は大きな決断をした。
皮肉にも、赤城が決断を下したのも3日後、つまり1月29日であった。




