第四章 明日ヘト繋グタメニ(1)
同日、午後3時2分。
見慣れた会議室。外は雨が降り出し、雨粒が地面に叩きつけられる音が部屋の中にも聞こえてくる。
しかし、今はそこに見慣れない人物が2人。彼らはホワイトボードの前に立ち、椅子に座ったり立ち見をしている『白』のメンバーの顔を見渡す。
赤城と氷川はその2人の近くに立っていた。これは闇野の指示であり、そのせいか他のメンバーからの視線が痛い。
「さて、結論から言う。俺様は貴様らと仲間になるつもりはねー。だが今は、今だけは協力関係になりたいと考えてる」
その言葉に、部屋の中にどよめきが広がった。
今この場には『裏』にいる『白』のメンバー全員が入っている。それでもなんとか部屋に納まるほどの人数しかいないが。もちろん諜報部隊もいる。だからこそ、彼らとしても未だに状況を飲み込めないのだ。
自分たちのリーダーが、本当は敵だった。信じろと言う方が難しかろう。
「貴様らがどー思ってるかは知らねーが、さっき見てもらったビデオは紛れもない事実だ。今の状況を説明しておくとだな」
闇野はだらりと垂らした手でペンを持ち、ホワイトボードに図を書いていく。だがあまりにも歪んだ図となってしまったため、北条が綺麗に書き換えた。
「この丸が『白』、んでこっちが『黒』。そして上にある丸が清二だ。つまり、これまで『裏』には3つの勢力が存在してたってことだ」
勢力。
動いていたのが成宮1人ならば闇野もこのような表現はしなかっただろう。しかし、『白』のメンバーからも『黒』のメンバーからも今日になって突然行方が分からなくなった者がいる。
当然、『表』に帰っている者もいるが、彼らには連絡がついた。
導き出される結論はただ1つ。
成宮に賛同し、動いていた者たちがいる。
だからこその、勢力。
「『白』はエデン破壊論、『黒』はエデン防衛論……ならば、清二たちはさしずめ、大戦招来論と言ったところか? 一見すると『白』と同じ目的のよーに思えるが、導かれる結論がちげー。それくらいは流石に理解してるだろ」
どよめきが収まらない中、最前列に座っていた篠塚が闇野に問いかける。
「どうして成宮は第3勢力として活動していなかったんだ? わざわざオレたちを欺く必要なんてどこにもなかっただろ」
「時が満ちるまで、知られるわけにはいかなかったんだよ。面倒事を避け、余計な労力を使わずに目的を成し遂げる」
そもそも、『白』と『黒』それぞれの最終目的は平和である。対し、成宮勢力の最終目的は戦争。つまりは更なる戦乱。であれば、成宮勢力は『白』と『黒』の2つから最優先目標とされるはずだ。ともすれば、『白』と『黒』が協力関係になってしまうかもしれない。
『裏』の人間が纏まってしまうこと、それを成宮は恐れていたのだ。だから、自らが『白』のリーダーとなり、『黒』と徹底的に対立するよう導いた。
「ま、知っていながらも止められなかった俺様に責任がある。だが……いや、だからこそ協力関係になって欲しーんだ」
「それをオレたちがはいそうですかと了承するとでも? オマエは『黒』のリーダー。これまでも『白』のメンバーを殺してきた存在。どれだけの恨みを買っているかは、オマエ自身が1番分かっているはずだろう」
たとえ闇野が直接殺していなかったとしても、彼が『黒』のリーダーであるだけで恨みを持っている人間がいる。そんな人間と簡単に強力できるはずがない。
その証拠に、部屋の中にいる者たちは小さく頷いている。中には、今にも闇野たちに襲い掛かりそうな表情をしている者も。
「……まー、そーなるわな。だったら、これはどうだ」
闇野はペンを置き、教壇から降りた。そして篠塚の目の前まで歩き、彼の目を特徴的なタレ目で覗き込み、続いて視線を向けている者全ての顔をしっかりと見回し、こう言った。
「俺様の命を賭ける。清二を止められたなら、俺様は自害でも何でもしてやろう」
次の瞬間、更なるどよめきが部屋を包み込んだ。
赤城と氷川は思わず身を前に出し、驚愕に見開いた目で闇野を、そして北条を見た。北条はこちらの視線に気付き、苦笑を見せた。




