第二章 復活の覚悟(1)
黒神は、病院のベッドの上で目を覚ました。
第三次大戦以降、能力開発の進展と共に医療技術も飛躍的な進歩を遂げてきた。1日ですべての傷が治る……とまではいかないものの、黒神のように骨を折っていたとしても、動けるくらいにまでは回復させられる。
「…………」
患者用の服を着せられている黒神は上半身をゆっくりと起こし、自分の右手を見つめる。
助けられなかった。その掌には、敗北の感触だけが残っている。
(俺は……)
両目から涙が零れてくる。それは彼の頬を伝い、真っ白な毛布を濡らしていく。
(弱い。たった1人の女の子すら守れないほどに)
だが、朝影は決して黒神のことを責めないだろう。能力が発現したその日に『楽園解放』のリーダーと戦ったのだ。そもそも、勝てるはずがない。
黒神自身も、そんなことは分かっていたはずだ。
だが、心のどこかで奇跡を信じていた。
誰かを守りたい。その強い気持ちが起こす奇跡を、彼は信じていたのだ。
漫画やアニメの主人公たちはそうやって死地を切り抜けてきた。どんなに強大な敵であっても、諦めず、その時が来るまで必死に戦って、最後には周りの人間を守り抜く。
それが英雄と呼ばれる者たち。
しかし、彼は漫画の主人公ではない。現実にいる、元々は能力の覚醒していない人間。ただの、高校生。そんな彼に何を求めるというのだ。
中学生でデバイスを渡され、能力を使えないまでも、平和に暮らしてきた。言い換えれば、戦いなどというものに関わらずに生きてきた。
そんな高校生に、何を求めるというのだ。
そう、もしあの戦いを見ていた人がいるのならば、その人は彼にこう言葉をかけるべきなのだ。
――よく頑張ったね。
――これから強くなればいいんだよ。
(『楽園解放』。多分、すぐにでもエデンを破壊しにくるんだろうな)
涙を拭わずに、黒神は病室の窓を見る。かなり長い時間眠っていたのだろう。今は翌日の昼間のようだ。
(そうだ、もう他の人たちに任せればいいんだ。俺なんかよりも、もっと強い人たちに)
考えれば、このエデンには多数の能力者がいる。黒神よりも場数を踏んでいる人間たちが。
警察だってそうだ。そう、彼らに任せればいい。黒神は戦う必要なんか無いのだ。ヒーローになんかなる必要は無い。誰かが、誰かがヒーローになってくれる。
(これが、現実か……)
漫画やアニメの世界ではない、現実。
朝影に勝ったことで少し舞い上がっていたが、あれこそ奇跡だったのかもしれない。いや、朝影が油断していただけなのか。
「……俺は、ヒーローにはなれない」
分かっていたことなのに。
自分は、ヒーローの活躍を見る側。
それなのに。少しの希望が見えただけで、そのことを忘れていた。能力が発現したから、自分の人生は変わるのだと。
それでも、結局彼は『傍観者』だった。
それで、良いではないか。傍観者でも、生きていける。そうだ、親友の焔と遊ぼう。小学校からの親友の彼と。
さぞかし楽しかろう。
なのに、何故だ。何故――
――涙が止まらないのだ。




