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第三章  最後ニ笑ウノハ誰ダ(7)

「それは、どういうことだい……?」


 赤城の体から火の粉が散り始め、やがて彼の体を紅蓮の炎が包み込んだ。

 拳を構えた彼の体は闇野ではなく、成宮の方を向いている。赤城の行動には、部屋の端に北条と一緒にいた氷川も驚きの表情を浮かべた。


「リーダー、1つだけ聞きたいことがある」


 本当は、聞きたいことなど山ほどあるに決まっている。だが、そんな中で赤城は1つだけを選んだ。それが、成宮が『共通の敵』かどうかを確かめるのに最適だと考えたからだ。


「下で戦ってるはずのメンバーは何処に行ったんだ?」


 瞬間、成宮の唇が僅かに歪んだ。まるで舌打ちをしようとしていたかのように。


 今回の作戦では、左翼・右翼・中央と分かれて攻撃を仕掛けることになっていた。そのために部隊を大きく3つに分けているのだ。であれば、当然ここでも戦っていた部隊がいる。しかし、成宮がここにいるというのに、そのメンバーは誰一人として来ていない。


 成宮が後を任せてここまで来たとも考えられるが、彼が浴びた返り血の量からはその可能性は限りなく0。

 となれば、残る可能性は。


 赤城は炎のせいではなく、沸々と煮えたぎるような熱さを感じていた。内から湧く感情は、成宮の返答によってその行き先が変わるだろう。


「……赤城君、私は多対一は苦手なんだよ」


 一息。そして、成宮の顔が不気味に歪んだ。

 それは笑顔とも、苦悶とも捉えられる。そして、首を少しだけ傾けながら彼は告げる。


「だから、答えられないな」

「――っ!!」


 それは、一体どういう意味なのだろうか。少なくとも、いい答えでは無いはずだ。


「殺したのか……部下を、『白』のメンバーを!!」

「さあ、どうだろう。私は君たちを部下として見たことはない。目的達成のための駒だ。だから、部下を殺した覚えはないな」


 直後、赤城は成宮に突進した。それを見て、闇野も同じく駆け出す。


「だから多対一は苦手だと、言ってるだろう!!」


 まずは『陽炎』で姿を消し、潜り込んだ懐から炎を纏った拳を振り回そうとした赤城の脳天に肘を振り下ろし、彼の体を蹴飛ばす。ただの蹴り飛ばしのはずなのに、赤城の体がくの字に折れ、あばらからは何かが砕けたような音がした。


 そして横から来る闇野のとび蹴りを片手で受け止め、反対の足をなぎ払う。バランスを崩した闇野の体を振り回し、壁にたたきつけた。


「氷河、少し短絡的過ぎないか。一体君は私の何を見てきたんだ?」

「けっ、よく言うぜ。焦りが見えてるぞー」

「ああ?」


 体を小刻みに震わせながらも、闇野は笑っていた。その視線の先には。


「うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「っ!? あばらは折ったはず……だが!!」


 もちろん、赤城の動きは遅かった。金髪のツンツン頭は乱れ、顔は苦痛に歪んでいる。服は右翼での戦いにおいて破れ、文字通りボロボロだ。だが、それでも彼は止まらない。

 炎を、その目に宿して。


「『炎乗(フレイムライド)』」


 それは『陽炎』の応用。気がつけば、赤城の体は成宮の体を通り抜けていた。そして、彼の通った道から炎が噴き出す。当然、成宮の体にも。


 片膝をつき、右手を突き出したような格好の赤城は荒い息を吐きながらあばらを押さえて後ろを振り返る。そこには、炎に悶え苦しむ成宮の姿があるはずだった。


 しかし。


「……この程度か?」


 右腕に激痛を覚えた。よく見ると、肘の辺りが真っ赤に腫れ、そこから出血している。


「痛っ……!? な、なんで!」

「私に勝てると思ったら大間違いだ。君ごとき、取るに足らん」


 涙が浮かぶ目で成宮の近くを見ると、彼の体を沿うように、その隣が燃えていた。どうやら、赤城が駆け抜けるコースを強引に変えたようだ。

 成宮の右手は手の形をしていなかった。それはまるでハンマー。しかも、鋼鉄の。


「私の能力の前に、君は勝てやしない。さて、ここからどうする?」

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