第三章 最後ニ笑ウノハ誰ダ(5)
「リーダーが『敵』……一体どういうことだ?」
闇野が放った一言に、赤城は首を傾げた。隣にいる氷川は目を点にしたまま立ち尽くしている。
「簡潔に言う。清二は戦争を起こそうとしてる」
「っ!? あ、ありえない! だって、『白』は戦争を阻止するためにエデンを破壊しようと……」
「それがそもそもの間違いなんだよ。まー、そこについては後々説明してやるよ。それよりも、今は清二が敵ってことだけ理解してりゃーいい」
闇野の目は真剣そのものだ。冗談を言っているような雰囲気ではない。赤城は目をパチクリさせている氷川を一瞥し、闇野に言葉を返す。
「さっき氷川ちゃんも言ったが、現状あんたたちは俺たちの敵だ。普通に考えて、敵のボスに『お前たちのリーダーが敵だ』って言われて信じるとでも?」
いや、それを目の前のズボラそうな男は分かっているはずだ。その上で彼は赤城に対してそう言っている。赤城は彼の言葉を真っ向からは否定しないようにした。
「まー確かに。そればかりは、貴様の問題だしな」
「…………」
「今はとりあえず、俺様の言葉を信じてくれ」
氷川は最早話についていけないのか、ぐるぐると目を回しながら頭を抱えている。彼女をパソコンで作業をしている北条の所に行かせ、赤城は会話を続けた。
「そーだな。じゃー戦争の話は止めて、単純に清二が敵だってことに焦点を当てるか」
「と言うと?」
闇野はその場をウロウロし始める。時折指を鳴らすのは、いい言葉が浮かんだからなのだろうか。
「気付いてはいるんだろ、この全面戦争のおかしさに。それが1つの証拠だ」
そう、今回の作戦には明らかにおかしい点がある。それは、赤城が今回の作戦を聞いた日だ。それは昨日の夜。しかも、『偶々』成宮と遭遇したから聞けたのである。もし遭遇出来ていなかったら?
これがただのパトロールならば特に不審であるとは感じない。だが、今回の作戦は文字通り全面戦争だ。なのに、それを部下に伝えるのが前日、はたまた当日だったかもしれないということを考えると、どうしても納得できない。
「つまりこの作戦には裏がある。俺たちが知らない、本当の目的……」
「そーだ。それがさっきの映像ってことだな。あの少女と会うために、全面戦争を仕掛けたってことだ」
成宮にとってこの全面戦争は自らの目的をカモフラージュするための手段に過ぎない。
言い換えれば。
彼にとって部下の命とはその程度なのである。
「『裏』は、自分の目的を達成することが一番の目標だ。どんな手を使ってでも。だからこそ警察は関与しねー。しかしよー、だからってこれは流石に酷いよな」
「…………」
「黙るのが多くなったな。いーか、沈黙は肯定の表れだぞ」
「俺は、どうすればいいんだ? あんたが言ってることは、信じたくないけど事実だ。でも、だからって『黒』に寝返るなんて――」
「誰もそんなこと望んじゃいねーよ。貴様は『白』、俺様は『黒』。それでいーじゃねーか」
その言葉に、赤城は自分の耳を疑った。大きく目を見開き、右足を前に出す。
「はあ!?」
パチンッ! と指を鳴らし、闇野は勢いよく赤城を指差す。
「清二は『白』でも『黒』でもねー。俺様たちの『共通の敵』だ」




