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第三章  最後ニ笑ウノハ誰ダ(2)

 エレベーターはそこまで広くなく、3人も乗れば少し詰めなければならなかった。結果として、氷川・北条が引っ付き合い、赤城が離れて立つことになった。

 狭い箱の中に、気まずい空気が流れている。


 氷川と北条は元々仲良しであったはずだが、再開したら敵同士であった。そのような状況で、今は敵でも味方でもない状態で隣同士に立っている。寧ろ、気まずくならないほうがおかしい。


 話したいけど、何から話せばいいのか分からない2人の空気を察し、赤城は自ら話を切り出す。


「えっと、北条さんだっけ。このエレベーターはどう動いているんだ?」


 北条は突然の質問に戸惑いながらも、金色の目で赤城をしっかりと見つめながら答える。


「一旦下に降りて、地下を通って本部の建物に移動いたしますわ。ですので、もうしばらく時間がかかるかと」


 扉の横にある操作盤を見ると、このエレベーターは右翼の各階及び中心のビルの各階に止まることが可能らしい。右翼と中心のビルとはかなり間隔が空いている。恐らく、目的地まであと5分はかかるだろうと北条は付け加えた。


「2人はさ、いつからの付き合いなんだ?」

「確か、小学校4年生の頃に出会いましたわね。毎日遊んでいましたわ。あの頃は、葵も可愛かったのですが……」


「ちょっ、そういう話はいいじゃないですか!」


 氷川が顔を真っ赤にして話に割り込んでくる。


「へえ、氷川ちゃんがねぇ。結構しっかりしてるイメージなんだけど」

「葵はおっちょこちょいでしたわよ。一緒に公園で遊んでた時なんか酷かったんですのよ」

「か、重!! それ以上は許しませんよ!!」


 人差し指をピンと立てて話す北条の口を両手で必死に塞ぎ、氷川は赤城を睨みつける。


「変な話を振らないでください!!」

「いやでも、面白そ……気になるじゃん」


「今絶対面白そうって言おうとしましたよね! こんな状況で弄ってくるとか、無神経にもほどがあります!!」


「それ、こんな状況じゃなければ弄っていいってこと? 氷川ちゃんもようやく俺に心を開いてくれたのか!」

「どういう受け取り方をしてるんですか!? 違います、違いますから!!」


 アタフタする氷川を横目で見て、北条はクスクスと笑っていた。目尻に浮かぶ涙を拭いながら、いつの間にか彼女の前に移動している氷川の肩を叩き、親指を突き立てて、


「昔から、変わりませんわね。いえ、と言うよりも素の葵を出せていると言ったほうが宜しくて?」

「……どういう意味ですか」

「さあ、どういうことでしょう。まあでも、私は葵の変わらぬ姿を見れて幸せですわよ」


 首を傾げる氷川は、北条の視線が自分のある部分に向けられていることに気付く。具体的には、北条は更に成長していながら、自分は殆ど変わっていない部分。つまり――胸部である。


「かかか、か、重! どこ見てるんですか!!」

「昔から、変わりませんわね」

「絶対さっきと違う意味ですよね!? だ、大体重が成長しすぎなんですよ。肩が凝りそうですね!!」


 氷川は精一杯の皮肉を言ったつもりであったが、北条はニヤリと笑いながら肩を回し、


「ええ、仰るとおりよく肩が凝りますの。いいですわね葵は、こういう悩みが無くて」

「ぐっ……煽ってんのか……私を煽ってやがるんですか、この乳魔人!!」

「ひゃんっ!? ちょ、ちょっと葵! 殿方の前ですわよ!?」


 氷川は怒りで眉をひそめ、且つ瞳に涙を浮かべながら口をへの字にして北条の豊満な胸を鷲掴みにした。そして、大きなメロンのようなそれをワシワシと揉みしだく。


 赤城は2人を直視しないように両手で顔を覆っていた。健全な男子高校生としてはご褒美のような光景である。


(つーか氷川ちゃん、乳魔人って言わなかったか? まさかそんなことを言う子だったとは……」


 狭い箱が、ガタガタと揺れるのが分かる。


 当初の気まずい空気は無くなったものの、同い年の女子2人が暴れている中、赤城は別の意味で気まずい空気を感じていた。

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