第二章 ソノ命ハコノ手ノ中ニ(6)
俺は、普通の男子高校生だ。ああ、普通って言うのはエデンの中でって意味だぞ。ここでは、寧ろ能力を持ってないほうが普通じゃないって言われるからな。だから……終夜辺りは扱いが酷かったと思う。本人は自覚してないっぽいけど。
さて、それは置いといて。
いつだったか。
多分、中学2年くらいだったと思う。能力が発現してから1年経った頃だから、あってるはずだ。
何を思ったか、あの日俺はいつもは通らない路地を通って家に帰ったんだよ。分かるだろ? この、偶には知らない場所に行ってみようっていう好奇心。
とにかく俺はいつもとは違う道を歩いてた。
人気もあんまり無いし、冬の夕方だと言うのに外灯も殆ど点いてないから、暗いのなんのって。今思えば、あそこはもしかしたら『裏』だったのかもしれないな。
そしたらさ、途中で女の子の叫び声が聞こえたんだよ。
怖かったけど、俺は叫び声がした方に向かった。
そしたら、さらに暗い路地で2人の女の子が取っ組み合いしてんの。片方は結構大きなナイフを持ってた。その時襲われてた方が氷川葵だったんだ。
あの時は氷川ちゃんの髪の毛は腰くらいまであったから、今まで気付かなかった。前に写真を見せてもらった時は今と同じくらいの長さだったから、あれより前か後か。いずれにしろ、あの写真を撮った時じゃないはずだ。
もちろん俺は止めに入ったよ。ナイフを振り上げてる女の子の横っ腹を蹴って吹っ飛ばした。
んで、両手に炎を灯して威嚇した。そしたら、その女の子は悔しそうな顔をして逃げていったんだ。もし向かってこられてたらヤバかったかもしれないな。
そして、俺は氷川ちゃんと一緒にその路地を出た。明るい場所に戻ってすぐに別れたから、その時はあの子が何者だったのか分からなかった。
聞いとけばよかったな。
そしたら、今際の際になって苦しい思いをしなくて済んだかもしれない。いや、知ってた方がもっと辛かったかも。はは、もうよく分かんねえや。
そう言えば、襲ってた方の女の子どこかで見た気がするんだよな。
えっと、確か――そうだ、あの子もロングヘアだった。髪の色までは暗くて分からなかったけど、それははっきり覚えてる。後は、氷川ちゃんと同学年には見えなかったな。スタイル的にも。年上だと思う。
んー、本当、どこかで見たんだよあの子。まあ、いいか。どうせもう死ぬんだし。
つーか、死んだことないから分からないけど、走馬灯ってこんなに長いものなのか? もう走馬灯って言うよりも、想像? 思い出し? そんな感じだぞ。
ん……あれ。目が開く。
うわっ眩しい! これが、天国の光なのか? いやでも、俺は人を殺してるわけだし、行くなら地獄だろうな。
あれ、でもこれ天井じゃね。
……俺、生きてる?
…………生きて、る!?
――生きてる!!
赤城はガバッ!! と起き上がって辺りを見渡すが、ロボットの残骸が散乱しているだけで人影は見当たらない。それどころか、戦闘音すらも聞こえない。
「……怪我も、治ってる? どういうことだ。だってヒーラーはいないって!!」
肩を触ってみても、腹部を触ってみても、どこの傷も全て塞がっている。服こそ破れたままだが、痛みも何もかもが治っている。
「そう言えば、誰かの声が聞こえたような気がする」
――冗談じゃねー。まだ、死なれるわけにはいかねーんだよ。
その声は、続けてこう言っていた。
――よく考えて行動しろ。貴様の動きが、この戦争の全てだ。生き延びたいなら、そして、あの少女を守りたいのなら。
数秒、間が空き、赤城は放たれた弾丸のように走り出した。




