第一章 嵐ガ来ル前ニ(1)
1月25日月曜日。
金髪ツンツン頭の少年、赤城焔は肩までの長さのストレートの黒髪の少女、氷川葵と共に『白』の本部にある自室でテレビを見ていた。2人とも、各々の学校の制服姿である。
赤城はテーブルの近くに座り、氷川は台所で使った湯のみなどを洗っている。
ニュースが伝えているのは、今週の天気や交通情報など取りとめも無いものばかりである。夕方のニュースだから当然ではあるが、赤城としてはもっと『表』の事件などを知りたいようだ。面白く無さそうにニュースを見ている。
「なあ、氷川ちゃん。何か面白い話をしてくれよ」
「何無茶振りしてるんですか。そんな振り方された後に何か話しても面白くなくなるだけですよ。あと、ちゃん付けはそろそろ止めてください」
洗い物が終わった氷川は、赤城の向かい側に座った。
「正直、『黒』の支部を壊滅させた戦い以降、『裏』も平和だよな」
「平和……確かに、あの時に比べればそうですが、道を歩けば襲撃される危険がある以上平和とは言い切れないと思いますよ」
赤城は一瞬考え、自分の感覚が狂い始めていることを認識した。
あの戦いから半月以上が経った。もちろん今も『白』と『黒』の争いは続いているが、本部にいる赤城たちに課されるのはホープの『裏』にある『黒』の支部付近のパトロールくらいである。
『黒』の残党に襲われることもあるが、赤城たちはその全てを撃退してきた。そう、赤城たちが行うのは撃退のみ。
これは主に氷川の意向であり、『白』のリーダーである成宮清二も了承している。
確かに襲撃者を殺すことが最も効果的な対処法である(『裏』においては、だが)。しかし、単純な撃退でも一応の効果はあるだろう。
もちろん、人を殺さなければならない場面に出くわすことも否定は出来ない。だが、少なくとも今はそんな場面に出くわすことはない。
「リーダーもそろそろ『黒』と決着を……とか言ってたし、それも近そうだけどな」
「そうですね。私も覚悟はしてるつもりです。ですが……」
氷川は俯いて指遊びを始めた。
そもそも、彼女の目的は親友である北条重を探し出すことだ。それを鑑みると、本来彼女は人を殺すには遠い立場にいることになる。
「私自身、人を殺したくはないですし」
「そう言えば、氷川ちゃんは俺が『裏』に来るまで何をやってたんだ?」
「え?」
「確か、戦闘には参加していなかったんだよな。でも、俺は来てすぐにペアを組まされたし」
ここが『白』の本部で、人員が足りていると言っても成宮やかつて行動を共にしていた狩矢真の話を思い出す限りでは、氷川も簡単な作戦には参加していてもおかしくはない。
「私は……その、特には……」
歯切れが悪い。氷川が何かを隠していることは赤城にも分かった。
「言いたくないんなら別に良いけどさ。でも、いつかは話してくれよ」
「……じゃあ、焔さんが私のことをちゃん付けで呼ばなくなったら考えてあげますよ」
氷川はテーブルに両肘を載せ、頬杖をついて笑顔を見せながら言った。だが、赤城は目線をテレビの方へ移し、
「それなら、一生かかっても聞き出せないかなぁ」
「何でですかっ!?」
穏やかな1日。
明日起こる事件のことを考えれば、この時間はとても幸せな時間であっただろう。




