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第二章  絶望の急襲(7)

 それは、必然だったのかもしれない。

 相手は仮にもある組織を束ねる者。対し、少年は昨日まで無能力者だったのだ。そう、この結果は当然のものである。誰も、責めたりはしないだろう――

 黒神は両手の拳に『氣』を集中させる。


「はッ、マジかよ……『氣』かァ! 大口叩くだけはあるッてとこか。幻の能力ねェ……さて、どうするんだァ?」


 大男は初めて見る能力に興味を示した。だが、その余裕は崩れない。


「うおぉぉぉぉ!!」


 黒神は大男に向かって駆け出した。


「ま、そうなるわな」


 そして、白いオーラを纏った右手を振り回す。しかし、大男はその右手を軽々と受け止めた。


「――っ!?」

「このまま握りつぶしてもいいが、それじゃつまんねェよなァ」


 ハッタリではない。その気になればすぐにでも握りつぶされそうな握力で、大男は黒神の右手を握り締めている。

 がっかりしたような表情を見せて、大男は黒神の右手を解放する。そして、そのまま自分の頭を振り下ろした。

 ゴキィッ!! という音が響いた。


 硬い頭をモロにくらってしまった黒神はわけもわからずその場に倒されてしまう。


「あ、がっ!?」

「痛いだろ? 頭突きッてのは案外効くんだよ」


 続いて、大男は左の拳を振り下ろす。これもまた、原始的な音を響かせて、地面に仰向けに倒れている黒神の腹部に突き刺さる。


「ぐっ、ぶ……あぁぁぁぁ!!」


 口から胃液のようなものが吹き出す。呼吸が出来ない。黒神は腹を抑えて右に左にのたうち回る。


「おいおい、俺はまだ能力なんか使ッてねェぞォ?」


 大男は笑っていた。

 期待か、嘲りか。いや、その両方だろう。もっと見せろその能力を、とでも言いたげな顔だ。


「立てよ小僧ッ!! 喧嘩を売ッたのはテメェだろうがァ!!」


 叫ぶと共に、大男は黒神のわき腹を蹴り上げた。

 黒神は声にならぬ声をあげて、地面を転がる。

 今ので骨が折れただろう。それほどの衝撃と痛みが彼の体を駆け巡る。


「あがっ……」


 動けない。少しでも動けば激痛が走る。もはや、打つ術は無くなった。そこにあるのは単純な絶望。この大男には勝てないという、絶望。

 呻き苦しむ黒神に対して、大男はやれやれと肩を落としていた。


「こんなもんかよ。大口叩いてたし、『氣』を操る能力だからちょッと期待してたんだが……お前、本当に能力者かァ?」


 大男の疑問はもっともだ。黒神は正に今日、能力が発現したばかり。そんな人間が、ある部隊の隊長に戦いを挑むなんて、そもそも間違っている。

 根本的に、勝てるはずなどないのだ。


「ひゅっ、がっ……」


 黒神は必死に酸素を取り込もうとしている。もうそれが精一杯の行為であった。


「光ィ、なんでコイツと特訓なんかしてたんだァ? 無駄だろ」


 朝影はまだ、その場から動けずにいた。


「はァ、あれだ。確かに『氣』を操る能力は強ェ。幻の能力だからな。でもよォ、使用者が弱けりゃ意味がねェんだよ。光よォ、テメェはとんだ勘違いをしてたようだなァ」


 それ以上言わないで。

 そう心の中で望んだ。だが、大男は無慈悲にも言葉を継ぐ。


「コイツは弱ェ」


 今度こそ、彼女の心は恐怖で埋め尽くされてしまう。そう、一片の希望も絶たれてしまったのだ。

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