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第一章  運命の邂逅(1)

 12月24日、クリスマスイヴ。

 学校も冬休みに入り、この日は町中でカップルがいちゃついている。

 実験都市『エデン』の最大都市、『ホープ』でもそれは例外ではなく、大きなビルが建ち並ぶ大通りは普段の倍以上の人間で溢れかえっていた。


 そんな中、黒一色のシャツの上に白いフード付きジャンパーを重ね、下はジーパンという何とも地味な服装で独り大通りを歩く少年がいた。


 彼は黒神終夜くろかみしゅうや。高校2年生である。首筋までの長さのストレートの黒髪、狼のような鋭い目。中肉中背の少年は、周囲を見渡しながら時折ため息を吐いていた。


「どうしてこう、家で静かに愛を育むとかいう選択肢がないのかね。見せつけか、独り身へと見せつけかっ!! ジーザスッ!!」


 地団駄を踏んでみるものの、余計に空しくなるだけだった。黒神は先ほど大手スーパーで買った苺のショートケーキを頼りながら、心が折れないよう努力している。


「はあ、サンタさん……俺に能力か彼女の贈り物を……出来れば後者で!」


 能力を彼が望むのには理由がある(彼女の欲には負けるようだが)。

 エデンでは、デバイスを用いた能力実験が行われている。人間の遺伝子に潜在している能力の種のようなものを、デバイスによって強制的に開花させる。それにより、所謂『超能力』を発現させるのである。


 実験対象は中学生以上の人間。もちろん黒神も例外ではなかったのだが、彼はデバイスに適合しなかった。平たく言えば、超能力が発現しなかったということだ。


「別に珍しいことじゃないんだが……いざ自分がそうだと言われると、複雑だよな」


 実験都市である以上、失敗例は生まれる。それが、黒神のような人間だ。能力が発現しない人間は珍しくはない。1つの学校に数十名はいる。


 だが、発現しなかったからといって不自由な暮らしであるというわけではなく、寧ろ能力者が強制参加させられる授業に出なくていいだけ、学校生活は楽だ。日常生活においても、特に支障は無い。

 つまり、エデンは能力実験以外は外界の都市と殆ど変わらないということだ。


「綺麗なイルミネーションだな。これを恋人と見れるともっと綺麗なんだろうな。あれ、何でだろう、視界が霞んできやがった」


 ごしごしと袖で目を拭い、再び大きなため息を吐く。


「ま、サンタさんなんているわけねぇよな。さて、とっとと帰るか」


 キスしたり見つめあったり抱き合ったり、様々なカップルの間を潜り抜け、黒神は大通りから離れていく。

 

 とここで、予想外のことが起こった。

 大通りから少し離れた路地で、黒神は見てしまったのだ。どこかの学校の制服を着た華奢な少女が、そこに倒れているのを。


「おいおい、確かに彼女が欲しいとは言ったが……これはおかしいだろ!? え、死んでる? 死んでるの!?」


 持っていたショートケーキの入った袋をその場に置き、彼は少女の体を揺する。


「いや、死んではないのか。おい、大丈夫か!? こんな所で倒れてたら本当に死ぬぞ!!」


 へんじがない。ただのしかばねのようだ。


「えっと、どうすれば……とりあえず、家に運ぶか? いやでも、俺独り暮らしだし、犯罪行為になりそうな気がする! でも、でもぉぉぉ!!」



 結果。

 連れ帰りました。

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