第一章 甘い時間(6)
考えれば簡単なことだ。
デバイスの反応を表示するアプリに表示されないのならば、その人物はそもそもデバイスを持っていない。だが、この事実が藤原の質問の真意を浮かび上がらせる。
「何故デバイスを持っていないのか。確かに、カントリーでの一件の後にデバイスの申請をするのを忘れてただけだとも考えられる。ですが、彼女はたとえ『楽園解放』とは関係の無いような見方をされていたとしても、そもそも外界の人間。それがエデンに住むことになったのならば、デバイスの装着を強制されなければおかしいんです」
『楽園解放』とは関係ないとはいえ、彼女自身コルンという町で事件を起こしている(藤原は知らないようだが)。その情報こそ流されていないが、『管理者』たちは朝影の存在を知っているはずだ。
ならば、何故彼女はデバイスを付けられていない?
「彼女自身が拒否しているとしか思いようが無いんです」
エデンが住人にデバイスを付けさせるのには色々な理由がある。
その内の1つが、全住人の管理だ。一体どのような方法で管理しているのかは謎だが、その目的をエデンは公にしている。
たとえば、朝影がそれを嫌がる理由を持っているとしたら。
「ちょ、ちょッと待て! あいつは『二重能力試行実験』の時、俺に動画付きのメールを送ッたりしてた。それに、電話も出来る!」
「もしかして、知らないんですか? デバイスは、外界にいる家族とも最低限の連絡をとれるように、電話とメールの機能だけはどんな機種の携帯ともやり取りが出来るように解放してるんですよ」
例えば、黒神と轟。
藤原も知らないことだが、この2人は初めて会った時に連絡先を交換している。そう、交換できているのだ。
「……信じたくはねェ。だが、これはあまりにもッ……!!」
否定するだけの根拠が無い。
それに気づいた神原はよろめいてぶつかった壁にそのまま身を預け、脂まみれの額に手を当てながら黙り込んでしまう。
彼を少し心配しながらも、藤原はガラスが設置してある机を思いっきり叩き、俯いている新庄に対して大きな声でこう尋ねた。
「もう1度聞く。朝影光は……どっちなんだっ!!」
真実の一片が、遂にその姿を現す。