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第一章  甘い時間(5)

「朝影光……彼女は、私たちにとっても重要な存在だ」


 ガラスの向こうで、新庄はゆっくりと告げた。今度は俯かず、しっかりと藤原の顔を見ながら。


「表現するならば、2つの『楽園解放』を繋ぐ1本の糸。今回の作戦の目的の1つが、彼女との接触だったくらいだ」


「僕の言い方が悪かったね。聞きたいのはそこじゃないんだ」


 藤原は組んでいた腕を解き、膝に拳を当てながら言葉を換えて再び尋ねた。


「朝影光は、僕たちにとって味方なのかそうじゃないのか。聞きたいのはそれだけなんだ」


 その言葉に、横で静かに話を聞いていた神原が勢いよく立ち上がる。そして、顔を真っ青にしながら、


「おい藤原ァ、一体どォいう意味だァ……?」

「実は、昨日救助活動をしているときに見てしまったんですよ……ありえないモノを」

「それは?」


 神原は今にも藤原に掴みかかりそうな勢いだ。彼としても、信頼を置いていた部下が疑われていることに納得がいかないのだろう。恐らく、藤原が的外れなことを言ったならば今も硬く握り締めている拳で、彼のことを殴るはずだ。


「このアプリ、治安維持部隊の隊長さんなら知ってますよね」


 そう言って、藤原は自分のデバイスの画面を神原に見せた。そこには、災害救助活動に用いるデバイス探索アプリの画面が表示されている。


「あァ、もちろんだ。俺のデバイスにも入ッてる。だがよォ、それがどうしたんだ」


「あの時、救助活動をしていた僕はもちろんこのアプリを使って生徒や先生たちを探してました。これはデバイスの反応を表示するアプリですから、当然学校内の全ての人間――いや、たとえ学校の人間でなかったとしても、エデンの人間であれば全員を見つけ出せる。神原さんも、然り」


 ですが、と藤原は付け加えた。そして椅子から立ち上がり、自分から神原の方へと近づき、


「1人だけ、いたんですよ。このアプリがありえない反応を示した人間が」


「……ありえない反応だァ? ふざけるなよ、これはエデンの『管理者』公認のアプリのはずだ。何せ、元々は警察や消防、そして救助部隊やらにしか使えないアプリだッたんだぜ。今でこそ一般解放されてるとはいえ、その精度は他のアプリの比にならねェ」


「ありえない反応、というよりも……『反応しないという反応』と言うのが正解ですかね。そう、僕の近くにいたはずの彼女――朝影光からはデバイスの反応が無かったんですよ。周りには歓談部の後輩たちもいましたが、彼女だけが、このアプリ上では存在していなかったんです」


 神原は藤原の言葉を嘲るように笑いながら、自分の左腕を見せ付けて言う。


「馬鹿なこと言うんじゃねェよ。あいつはエデンに残ッたんだぜ? だッたらアプリに表示されるはずだろ。俺も表示されてるんだからよォ。あのアプリに表示されねェのは、デバイスを持ッてない外界の人間だけ……あァ?」


 言いかけて、神原は恐ろしいことに気付いた。その顔から笑みが消え、一気に血の気が引いていく。そして、ふらふらしながら後ずさりをしていった。


「おい待てよ藤原ァ……ありえねェ。そんなことありえねェ」


「いいえ、これしか原因は考えられないんです。神原さんの言う通り、このアプリの精度はお墨付き。それに、歓談部のメンバーや他の生徒たちはしっかりと表示されていた。彼女だけが表示されていないことは、バグとは思えない。ならば、もうこれしか選択肢は残ってないんです」


 そう、残されている選択肢はただ1つ。アプリのバグではないとするならば、原因は朝影本人にあるはずだ。つまり、




「光は、デバイスを持ッてねェ……!?」

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