第一章 甘い時間(3)
時は遡り、1月27日水曜日。
スーツ姿の神原嵐と学生服の藤原創、そしてその2人と強化ガラスを隔てて座っている新庄聡美。
小さく、薄暗い留置所の一室で3人は会話をしていた。
「さて、何から聞くかァ……藤原、テメエからいいぞ」
神原に順番を譲られた藤原は頷いて、少し身を乗り出した。それだけで、新庄はビクッ! と体を震わせた。彼女は藤原を尋常じゃなく恐れているようだ。
新庄の様子にたじろぎながらも、藤原は低いトーンで尋ねる。
「率直に聞きたい。君たちは……『どっち』なんだい?」
「……『どっち』?」
「『阻止する』のか、『引き起こす』のか」
その言葉で新庄は藤原の真意を悟ったらしい。ボサボサの髪からわずかに隻眼を覗かせながら、震える声で答えた。
「私たちは、……後者だ」
その答えを予想していたのか、藤原と神原は全く驚かなかった。
「そんなに簡単に言っちゃっていいの? 僕がそちら側なら、一応前者だと答えるけど」
「隠していても、どうせ能力か何かで暴かれる。いや、今この場で貴様が私に精神操作をする可能性だって……」
後半の言葉を言うとき、新庄は両肩を抱いて震えていた。ふと横を見ると、神原が白い目で藤原の方を見ている。
藤原としても複雑な気持ちを抱えたまま、会話を続ける。
「じゃあ、エデンの治安維持部隊の『楽園解放』と分裂したのもそのせいなの?」
「ああ、隊長は気付いていなかったみたいだが……結構前から2派に分かれていた。完全なる分派のチャンスがあの時だったのだ」
「……ここからは、僕よりも神原さんの方が良さそうだ」
そう言って、藤原は身を引いた。それに呼応するように、神原が少し近づく。それを見て新庄は嬉しそうな顔をした。
「うう、何か本当に傷つくなぁ」
「自業自得と言うべきか、流石と言うべきかァ……とにかく、ご愁傷様だ」
神原は藤原とは対照的に、優しい声で尋ねる。
「さァ、始めよォか。まずは……テメエがエデンについて知ッてることを教えてもらおォか」
「はっきり言えるのは1つだけ。エデンは、戦争を阻止しようとしている」
「……そォか。だが、何故それがはッきりと言えるんだァ? 俺たちはエデンが戦争を引き起こそォとしているから――」
「その言葉、そっくりそのまま隊長に返したい所だがな。私たちのリーダーはエデンに関する情報収集に長けている」
神原は彼女の言葉に眉をひそめた。
「リーダーか。やはりいるんだな、テメエらを束ねてる人間が」
新庄は司会を防ぎ始めた髪を横に避けながら、
「いや、束ねている……わけではない。彼が最もエデンを憎んでいるからこそ、自然とリーダーになっているだけだ。その肩書きにあまり意味は無い」
ここまで喋っておきながら、新庄は全くリーダーの名前を出さない。神原は名前を聞こうとしたが、彼女は拒否した。どうやら、これだけは言いたくないようだ。
「僕の能力で言わせてみる?」
「や……止めてくれ! 近寄るな!!」
「藤原、流石に俺にも良心の呵責ッてもんがあッてだなァ」
「…………」
藤原は残念そうな顔をしてみせた。そして、能力の代わりに次のような質問をした。
「君たちと、朝影光の関係を教えてくれないかい?」
その名を聞いた瞬間、新庄はクワッ! と隻眼を見開いた。