終章 さあ、ヒロインの時間だ
ホープには、大きな留置所が存在する。基本的には、ホープ内で起こった事件の容疑者はここに留置されるのだ。
面会所は小さいながらもいくつも設けられており、その中は強化ガラスを挟んで椅子が2つ設置してあるだけという簡素な作りである。
2つに分けられた部屋の片方に2人の人物がいた。職員が追加で持ってきた椅子に2人で座りながら、お互いに顔を合わせずに会話する。
「君だけでよかったのかい? あのお嬢ちゃんは……」
「彼女には少し刺激の強い会話になる可能性が高いですからね。後で僕のほうから伝えておきますよ」
1人は、いつものスーツを身にまとい立派に生えている顎鬚を撫でている。
1人は、学生服で行儀良く座り、落ちてきた金色の前髪を横に払いながら、隣の明らかに年上の大男に物怖じせずに話す。
神原嵐と藤原創。規模は待ったく違うが、2人ともある集団のリーダー的存在だ。
「僕は知りたいんですよ。全てを。今、一体何が起こっていて、何が起ころうとしているのか」
「……まァ、踏み込んだのならこッちの喋り方でもいいかァ。確かに、俺も知りてェ。テメエらの話を聞いてから、疑問が絶えねェんだ」
そう言っている内に、ガラスの向こうの部屋の奥にある扉が開いた。
そこから、1人の少女が入ってきた。
昨日とは服が違い、今は留置所に用意されている白一色の上着とズボンだ。そのせいか、少し胸が強調されすぎている気もするが。
憔悴しきった表情で、ロングストレートの黒髪はかなり乱れている。
「よォ聡美。座れや」
「……はい」
彼女はゆっくりと椅子に座った。その直後、具体的には彼女が顔を上げた瞬間、彼女は目を見開き、何か恐ろしいものを見たかのように怯え始めた。
「俺……じゃァなさそォだな。テメエ、聡美と戦ッた時何しやがッたんだァ?」
「さあ?」
「まァいいが、おい聡美。この強化ガラスはテメエの身も守る。コイツが何かすることはねェから前を向け」
神原の優しい声(口調は怖いが)に、新庄は恐る恐る顔を上げた。だが、決して藤原の方を見ようとはしない。
「なんか傷つくなぁ……さて」
「聞きたいことがたくさんある。テメエの知ッてることを全て教えろ」
こうして、狭い空間で時が刻まれ始めた。
一方。
黒神は自宅の前で深呼吸をしていた。
そして、いつも通りにドアを開ける。玄関の靴を見ずとも、彼女がいるのは確認できた。何故なら、彼女は玄関のすぐそばにある台所に立っていたからだ。
黒神は一瞬たじろぎながらも家に入り、不思議そうな顔をしている青髪の少女に向かって告げた。
「朝影、デートしよう」
さあ、朝影光のターンだっ!!