終章 決意
1月27日、水曜日。
黒神たちの通う学校はしばらくの間、休校とならざるを得なくなった。復旧の目処は立っていないが、学校からの発表によると、4月までには学校が再開できるようだ。
さて、そういうわけで現在黒神をはじめ、生徒たちは自宅待機――もとい、長期休業中なのである。
「…………」
黒神は1人、学校へと来ていた。
とはいえ、校門からは入れないようになっており、中の様子をはっきりと見ることは出来ない。工事の音が聞こえている辺り、猛スピードで校舎の復旧が為されているのだろう。
今は昼。平日ということもあり、周りには全く人がいない。いたとしても、誰も黒神に目を向けようとせず、慌しく通り過ぎていくだけだ。
「俺は、どうすればいいんだ?」
工事の音に混じった少年の呟きは、誰にも聞こえない。
彼はつい数時間前まで『管理人』のビルにいた。彼女――朝影望と話したのは昨日だったのだが、気持ちの整理がつかないまま帰すわけにはいかないということで、半ば無理矢理ビルに泊まることになったのだ。
もちろん、あの会議室に設置してあった空き部屋である。
そこで、色々なことを考えた。
『管理人』の言葉を信じるのならば、今まで味方だと思っていた人物が敵になってしまう。だが、彼女の言葉を信じないのならば、残る疑問が多すぎる。
確かに、『管理人』という立場を考えれば彼女の話術が完璧だった、だから納得させられたと考えてもいいだろう。
だとしても。
否、だからこそ。
「どうしても、聞かなきゃいけないことがある」
そう、『管理人』を信じたとして、納得できないことが1つだけ存在する。もしそれが、彼女の説明を破る一手になるのなら。
信じたい。
共に戦った彼女のことを信じたい。
だから、対面で話す必要がある。
しかし、その決心がつかないのだ。
「『英雄』だのなんだの言われてるけど、俺だってそんなに強くないんだよ」
昨日の戦い。
歓談部対『楽園解放』という形になったあの戦いで、唯一黒神だけが勝利できなかった。彼はそのことに関しても悩んでいる。
強くならなければならない。
そう思っているからこそ、今胸を塞いでいるモノを取り去らなければならない。
「考えても仕方無い、か。前に焔に励まされた時もそうだったな……つーか、焔は一体どこに行ったんだ? 学校が一大事だってのに」
そう言いながら、黒神は学校に背を向けた。気持ちは、最初よりもすっきりしていた。
「ここが、男の見せどころだよな!」
そして、彼は自宅へと向かった。