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第四章  信じるべきもの、その代償(4)

 『楽園解放』の隊長、神原嵐は校門で救急隊や警察などと話をしていた。


「あれが、神原嵐……終ちゃんが踏み込んだきっかけか」


 神原のいる所に歩いて行きながら、藤原は呟く。その後ろを着いてくる早織は何も言わず、いつもの彼女からは考えられないほど怖い表情をしている。


 2人に気付いたのか、神原が不思議そうにこちらを見つめてきた。


「神原さん、ですね。僕たちは黒神君の……仲間です」

「そうか、じゃあ君たちが『楽園解放』を」


 神原は優しい口調のまま会話を続ける。初対面の人間には意外と優しいのだろうか。


「僕たちが不甲斐ないばかりに、迷惑をかけた。本当に申し訳ない」


 周りにいた警察や、『楽園解放』のメンバーたちが戸惑うのを気にせず、彼は藤原たちに対して深く頭を下げた。


「止めてください。僕たちは謝罪を求めに来たんじゃないんですよ」

「……どういうことだい?」


 ゆっくりと顔を上げながら、神原は尋ねる。


「今、一体何が起こっているのか。黒神君は、終ちゃんは何に巻き込まれているのか。全て、説明してください」


 直後、神原の表情が凍りついた。


 いや、彼もこの質問が来ることを予想はしていたはずだ。だが、それは無知ゆえの質問であると思っていた。しかし、藤原は確実に何かを確信している。この少年は既に踏み込みかけている。


「後悔は、しないね? ここで止まっておけば、これ以上戦いに巻き込まれる可能性は……」

「今更、何を言ってるの……!!」


 ドスの効いた声が響く。

 藤原の声ではない。これは、早織の声だ。彼女は今にも泣き出しそうな表情で、神原に詰め寄る。


「もう私たちは巻き込まれた! 今止まっても、私たちは戦わなきゃならない!! それに……彼にだけ、辛い思いはさせたくない!!」


「お嬢ちゃん……そォだな。すまない、配慮が欠けていた」


 彼の口調が急変したことに、藤原だけでなく詰め寄っていた早織も驚く。だが、神原は構わず続ける。


「『第四次世界大戦』。黒神が巻き込まれてるのはこれに関する事件だ。手ッ取り早く言えば、エデンを破壊しなければ、大戦が起こるッて所かァ」

「そんな……」


 早織は雨宮からその旨の話を聞いていた。そして、あれが本当だったとするならば、エデンは――


「待ってください」


 俯いて、肩を震わせている早織の背中に優しく手を置き、藤原が前に出る。


「僕は、不思議に思ってるんです。エデンが本当に大戦を起こす側なのか? と」

「……どォいうことだァ?」

「仮に、エデンが大戦を起こす側だったとしたら、僕たちにそういう教育をしないのは筋が通らない」


 そう、エデンの学校では戦争に関すること(特に、それを扇動するようなこと)を学ばない。確かに、能力での戦闘のことは習うが、そこから戦争に繋がるとは思えないのだ。


「大戦のことは伝えずに、テメエらを誘導するつもりかもしれねェぞ?」

「だったら、エデンが外界の情報を入れないことに納得がいかない。いや、入れないんじゃなく伝えもしないんだ」


 外界から隔離された人間たちを導くには、どうすればいいか。最も簡単なことは、為政者に都合のいい情報を伝え続けることだ。


 もちろん、『二重能力試行実験』のことは意図的に隠された。だが、それだけでは戦争に繋がらない。

 そして、エデンの住人は現在外界がどうなっているのかを全くと言っていいほど知らない。まるで、『関わらない』ようにしているかのように。


 つまり、ここから導き出されるのは。


「……テメエ、まさかこォ言いたいのか!?」


 神原は一瞬躊躇い、搾り出したような声で、






 ――エデンは、大戦を阻止しようとしている……?

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