第二章 絶望の急襲(5)
ベンチでいちゃついていた数名のカップルは驚愕した。
エデンでは指定外の場所での能力を使った戦闘は禁止されている。それなのに、朝影と黒神は突如として戦闘を始めたのだ。
朝影は両手の氷柱を振り回す。
至近距離で振り回される氷柱を、黒神は転がりながら回避する。
「言っとくけど、私は回復能力なんか使えないからね!」
「そういうのは先に言えよ!!」
使えないからこそ、彼女は綺麗な顔に打撲痕を負ったままなのだ。さて、回復能力がないということはどういうことだろうか。そう、攻撃を喰らうわけにはいかないということである。
「避けるだけじゃダメ! 『氣』をコントロールして、『氷槍』を破壊するのよ。あの時みたいに!」
避けた黒神を追い、朝影は再び氷柱を振り回す。
(破壊……でもあの時とは違う。2本あるんだ。なら――)
そう、片方だけを破壊してももう1本が残っている。両方を同時に破壊するためには、右手だけに集中するのでは足らない。
「おぉぉぉぉ!!」
白いオーラが両手に集中する。
黒神は朝影が振り回す氷柱の左を右手で、そして右を左手で殴った。氷柱は粉砕し、朝影は殴られた勢いで尻餅をついてしまう。
「いった……ふふ、少しはコツが掴めた?」
青髪の少女は少し嬉しそうに笑う。
「ああ、やっぱりなんとなく使い方が分かるみたいだ。でも……」
「なにか気になることが?」
「いや、このままで戦えるのかなって」
黒神のその言葉に朝影は不満そうな顔をする。
彼女は立ち上がり、制服のスカートについた砂を叩き落とす。
「仮にも私に勝ったんだから、少しは自信持ちなさいよ。まあ、私は『楽園解放』の中でも弱いほうだけど」
「……余計に自信無くなったんだが」
「さっきも言ったけど、貴方の能力は実践を積むたびに進化するはずよ。相手が強ければ強いほど……だから、大丈夫。そう思ったから、私は今ここにいるのよ」
その言葉は、黒神に自信を持たせるには十分すぎるほどであった。そう、その言葉は。
だが――
「うーん、次は……」
「まだやるの!?」
「当然でしょ? 準備は万全にしというた方がいいわ。それに、戦闘経験殆ど無いんでしょ」
近づく――
「じゃあ次は、その『氣』を放出してみる? ほら、私の『氷槍』もこうやって……」
「うおお! いきなりやるなよ!?」
その足音は――
「ごめんごめん、でもこれが出来るなら大抵の戦いでは負けないわよ。さ、実践実践」
「……分かったよ。その、ありがとうな」
「それは、特訓が終わったら言って欲しいかな」
――その実践、私が手伝おうか?
「っ!?」
突然聞こえた第三者の声に、2人は声のしたほうを見る。
広場と公園の仕切りとなっているフェンス。それに腕を組みながらもたれかかっている1人の大男がいた。
怪訝な顔をする黒神とは違い、朝影の顔からは血の気が引いていた。透き通るように綺麗なブルーの瞳は曇り、額からは嫌な汗が噴き出している。
「……た、隊長」