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第四章  信じるべきもの、その代償(2)

 中に入ると、そこは会議室のような場所であった。かなり広く、部屋の中心に大きな円形のテーブルが置いてあり、その周りに椅子が設置してある。


 そして、置くのホワイトボードの前に、1人の女性が後ろで手を組んだ状態でボードの方を向いて立っていた。


 黒神が来たのに気付いたのか、女性はゆっくりと振り返る。彼は、その容姿に見入ってしまう。


 腰にまで届きそうなストレートの黒髪、触ると弾かれそうなほどハリのある白い肌、そして整った顔立ち。白い白衣を着た彼女はまさに完璧な女性であった。微笑む姿は、女神のようだと表すべきか。


「ようこそ、エデンの『英雄』。私が『管理人』、今の貴方にとってはラスボス……という存在でしょうか」


 何処と無く、朝影に似ていると黒神は思った。彼は少し警戒しながら、


「どうしてそんなラスボスさんが俺を呼んだんですか?」

「ふふ、皮肉が上手いですね。用件は、上月(こうづき)……いえ、貴方を迎えにいった『管理者』から聞いているかと思います。貴方に、真実を知って欲しいのです」


 そう言って、『管理人』はホワイトボードの近くにある、これまた鋼鉄の扉へと黒神を誘導した。警戒はしながらも、黒神は誘導に従う。


 『管理人』の隣に立つと、ふわりといい匂いが漂ってきた。恐らく、彼女が『管理人』という立場でなければ引く手数多なのだろう。


「ここから先は、私以外入れない場所です。たとえ『管理者』であったとしても」


 つまり、6階までが一般人(とは言っても普通の手段では入れないだろうが)でも入れるエリアで、この部屋までが『管理者』が入れるエリア。そして、ここから先が彼女のみが入れるエリアということだ。


 あまりの緊張に、黒神はごくりと唾を飲み込んだ。そして、より強く拳を握り締めながら重い扉を開けた『管理人』の後に続いて中に入る。


 そこにあったのは――


「えっと、これは?」

「ここは私の部屋です。その、あまりジロジロ見ないでください……」


 女の子の部屋、というにはいささか地味な気もするが、かなり綺麗な部屋だった。ベッドの近くの小さな棚の上には、何かの写真が見える。だが、それが何の写真かまでは分からなかった。


 白衣の『管理人』は若干照れくさそうにしながらも、左手の方にあるもう1つの扉に手を伸ばした。


「こちらです」


 再び重い音が響き、扉が開いた。中は白一色の先ほどの会議室よりも広い部屋だ。そこにあるのは、まるで木のような物体であった。


 金属で出来ているらしく、その中心には眩しく光る球体が回り続けている。


「これが、『セカイ』と呼ばれる装置になります」

「『セカイ』……?」

「ええ、簡単に言えば、デバイスの一斉管理を行うためのものです」


 言いながら、『管理人』は木の根元まで歩いていった。そこには1つの画面が設置してあり、彼女はそれを操作する。

 直後、無数の小さな画面が部屋を埋め尽くした。


「こ、これは……!?」

「『セカイ』の役割は、運命の管理。デバイスを持つ者全ての運命を管理しているのです」


 よく見ると、どの画面にも誰かの顔写真が表示されている。『管理人』が指差した場所には、黒神の写真が表示された画面もあった。


「お察しの通り、全ての画面は1人1人のデバイス所持者に対応しています」


 そして、彼女は運命の管理が運命の操作とイコールであると語った。その言葉を聞いて、黒神の表情が一変する。彼は顔を歪め、敬語を使うのも忘れて『管理人』を問い詰める。


「じゃあ、俺たちの行動は全部お前たちに決められてたってことか?」

「否定はしません」


「……朝影と出会ったことも、『楽園解放』と戦ったことも、『二重能力試行実験』も全部?」

「いいえ、違います」


 彼女の回答に、黒神は首を傾げた。ならば、先ほどの彼女の発言と矛盾しているではないかと思ったからだ。


「まず、操作出来るのはデバイスを所有している者のみ。そして、『セカイ』が決められるのはあくまで物事のきっかけだけなのです」


 つまり、黒神が『二重能力試行実験』に関わることは決められても、その後彼が戦うか否か、はたまた戦いで死ぬか否かまでは決められないということだ。そして、彼女の言葉を信じるならば、出会った時点で朝影たちがデバイスを持っていないことを考えると、あの出会いは本当に偶然だったことになる。


 いや待て。

 黒神はデバイスを持っていたのだから、やはり朝影たちと関わるきっかけは作れたのではないか?


「運命は、一方の人間のみでは決められません。その運命に関わる人間の多くがデバイスを持っている必要があります。特に、2人の場合はどちらもデバイスを所有していなければなりません」


 いくら黒神が大通りを歩くという運命を作ったとしても、朝影があの場所で倒れていたとは限らない。彼女の運命は操作できないのだから。

 そう考えると、やはりあの出会いは偶然だったということだ。


「でも、『二重能力試行実験』は……」

「ええ、あれは『セカイ』によって操作しました。貴方に、私たちの実験を知ってもらうために。それに、あの実験はやりすぎていましたので」


 どうやら、あの実験は『管理人』が意図していたよりも大きく膨れ上がってしまったらしい。それを壊す意味を込めて、彼女は黒神をあの実験に関わらせたのだ。


「だとしても、月宮たちの犠牲は消えない! お前たちの目的が世界大戦である以上、俺はお前たちを――」


 そこで、『管理人』は低いトーンで、ゆっくりと告げた。


「そこが、最大の間違いなのです」

「……一体どういうことだ?」


 怪訝な顔をする黒神に、『管理人』は深刻そうな面持ちで、








「――私たちの目的は、第四次世界大戦の阻止です」

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