第三章 真実への道、決して遠からず
「終ちゃんは向こうを見てきてくれ。それから……君が朝影さんだね。君はあっちだ」
ようやく再集合した歓談部(+2名)に、藤原がテキパキと指示を出す。黒神も最後の力を振り絞って動き出した。防御系の能力を使用して耐えていた集団は既に救出しているが、他の生徒や先生たちがまだ残っている。彼らには分かりやすい目印が無いため、ここからは手探りで探し出すしかない。
もちろん、既に救出された生徒たちの中でまだ動ける者たちもそれを手伝っている。
「ここからデバイスの反応……待ってろ、今助けるからね!!」
藤原が使っているのは、カントリーでの事件の際黒神が使っていた、デバイスの反応を探すアプリである。元々は警察関係の人間にしか扱えなかったが、今回のような状況にすぐに対処できるよう民間人にも解放されたのだ。
彼は自分の携帯型のデバイスを操作しながら、瓦礫を浮かせて、素早く的確に埋もれている生徒の上からどかしている。これもコピーした能力なのだろう。
「大丈夫かい!?」
埋もれていた女子生徒は、藤原の顔を見ると、虚ろな目を瞬きさせて返事をした。それを見て、藤原は即座に回復を施す。やはり、彼の能力はチートと思われてもおかしくないはずだ。
回復を終え、次の場所に向かおうとした藤原だが、ふとある疑問を感じた。そして、その疑問の意味を知った瞬間、彼の顔から血の気が引いていった。
「な、なんで!? なんで映ってないんだ……」
彼のデバイスに、映っていなければならないものが映っていない。故障かとも考えたが、他は全て映っているのでそんなはずはない。
「じゃあ、これは……!!」
彼の目は、近くで作業をしていた少女に向けられていた。
藤原に指示された場所に向かった黒神は、その近くにいた早苗に手を貸してもらいながら救助を進めていく。2人は各々能力を使いながら瓦礫をどかしていく。
「ねえ、黒神君っ」
「ん?」
「浮気はダメだよっ」
「ぶっ!?」
中にいた生徒を引き上げながら、黒神は吹き出してしまった。
「こんな状況で何言ってんだよ!?」
早苗も何人かを瓦礫の中から助け出しながら会話を続ける。
「まあいいけどさっ。でも、優柔不断はいつかドロドロの悲劇を生むかもよっ?」
「何の話をしてるんだよ……」
早苗のイヤホン型デバイスが、埋もれている生徒たちのデバイスの反応を空中に浮かんだ地図の中に点で示している。彼女のデバイスを見ながら、黒神も動いているのだ。
「とにかく、決めてもらわないと困るのっ。その……おね――」
そこから先の言葉は続かなかった。
何故なら、背後から老人のような声が聞こえたからだ。
新たな敵かと思って振り返ると、そこにはスーツ姿で、黒いシルクハットを被り、白くて長い顎鬚を蓄えた老人が行儀よく立っていた。
「……何者だ」
「これは失礼。このような状況で声をかけるのは気が引けたのですが、こちらとしても大至急の事でしてね」
老人が喋る始めるのとほぼ同時に、救急車や消防車のサイレンが近づいてくるのが分かった。それも、かなりの数だ。まるで、老人が呼んだかのようである。
「黒神終夜君、僕と一緒に来てはくれませんか。救助は、消防に任せていただいて結構ですので」
「素性も分からない奴についていくとでも?」
早苗も老人に対して警戒している。だが、老人は本当に申し訳無さそうに頭を下げながら、
「失礼、まだ名乗ってませんでしたね。僕は『管理者』。所謂エデンの政府の人間です」
その言葉に、2人は共に眉をひそめた。
「出来れば、あの方に気付かれる前に君を連れて行きたいのです。どうか、了承していただけないでしょうか?」
丁寧な口調で、それでいてどこか本当に焦っているかのように老人は言った。
「でも、俺だけ行くわけには……」
「黒神君、後は私たちに任せて、行ってきなよっ。多分、本当に重要なことなんだと思うよっ」
気付けば、かなりの数の消防士たちが救出に参加し始めていた。それも考えての言葉だろう。
「……分かった」
「助かります。では、こちらへどうぞ」
老人に案内されるまま、黒神は学校の外に出て、停まっていた立派なリムジンに乗り込む。
『管理者』。
黒神からしても、聞きたいことがある人物たちである。本当に『管理者』なのかという疑問はあるが、それでも彼は乗ることを決めた。
「さて、黒神君」
まるで部屋のような車内にたった2人。そんな中で、老人は真剣な表情で、
「君には真実を知ってもらいたいのです」
――そして、物語は加速する。