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第三章  それぞれの戦い、それぞれの想い(11)

「早苗……どうしてここに!?」


 戦場に舞い降りた、自分と同じ容姿の黒いオーラを纏った少女。驚いていたのは早織だけではなかった。雨宮も少し離れた場所で目を丸くしている。早織が2人になったことに戸惑いを隠せないらしい。


「光ちゃんから事情を聞いたんだっ。それに、結構遠くまで爆発音が響いてたよっ」


 なのにどうして警察は来ないんだろうねっ? と早苗は付け足した。最もな疑問ではあるが、今はそんなことを考えている暇は無い。


「同じ顔。同じ服。不思議ね。でも。やることは。変わらない」


 雨宮は2人の会話を待ってはくれない。巨大な水の爪を新たに現れた早苗に向かって振り回す。


「うーん、強そうだけど、お姉ちゃんほどではないかなっ!!」


 そう言って、早苗は迫り来る巨大な爪に対して右手に造った黒い剣を振るう。それだけで、雨宮の水の爪は砕けてしまった。


「っ!? 嘘。こんなの。聞いてない」


 よくみると、早苗の背中から黒い翼が生えていた。その翼の意味を、早織は知っている。


「早苗、大丈夫なの!?」

「うんっ? ああ、もう大丈夫だよっ。私は自由に完全体になれるっ!」


 相変わらず、凄まじい成長速度だと早織は思う。『水創剣』を握りなおしながら、早苗が敵でなくてよかったと心から思った。


 実際、この前は敵だったわけだが。


「早く終わらせるよ、お姉ちゃんっ。私たちの連携があれば簡単だからっ」


 その言葉を合図として、2人は走り出した。途中から早苗は空を飛び始める。

 一方、雨宮は焦りの色を見せていた。


「確かに。連携。聞いてた。でも。個々が。これほどなんて。聞いてない!!」


 早織には右の爪を、早苗には左の爪をそれぞれ振り回す。

 『楽園解放』は、早織と早苗の連携を断つことが、2人を撃破する鍵だと思っていたらしい。だからこそ、2つの爪を扱える雨宮が早織の相手をすることになっていた。


 だが、それは雨宮の能力が2人の個々の力を上回っていることが大前提の作戦である。

 ということはつまり。

 その大前提が成立しなければ、雨宮に勝機は無いのだ。


「ふざけるな。私。負けない!!」


 彼女の叫びは、爪と共に無常にも打ち砕かれていく。早苗が剣を振るう度に爪が壊れ、段々と彼女が近づいてくる。


 しかし、早織は違った。

 爪を弾くのが精一杯で、中々接近出来ずにいる。


「……せめて。片方だけでも!!」


 両方を倒せないのなら、片方を。後の『楽園解放』との戦いでその連携を発揮出来ないように。

 自分ではなく、別のメンバーのために。

 これも、立派な連携である。


 そして、雨宮は早苗への攻撃を諦め、全ての力を右手に集めた。青いオーラを纏った少女の右手の爪はさらに巨大化する。


「え……!? マズイ!!」


 早織は威力を増した爪に対して『水創剣』での対処を止めて、剣を球体に変えた。そして、『超水流(ハイドロポンプ)』を放つ。


「う、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 だが。


「それじゃ。止まらない!!」


 渦巻きながら突き進む水の光線が、雨宮の爪にぶつかる。それでも、彼女の爪は砕けない。一瞬だけ拮抗状態になるが、すぐに早織が押され始め、遂にその爪が彼女の体を――


「お姉ちゃんっ!!」


 早織の眼前に迫った爪は横から衝突してきた黒い光線によって破壊された。


「なっ……私の。負け?」

「これでトドメっ!!」


 気付けば、黒い翼を羽ばたかせている早苗の姿が目の前にあった。彼女の両手にはそれぞれ小さな黒球が出現している。


「『包闇連弾(ダークガトリング)』っ」


 至近距離から無数の黒い弾が雨宮を襲った。ガードすら出来なかった雨宮は『包闇連弾』を全て受けてしまい、眼鏡が割れ、口から大量の血を吐きながら吹き飛ばされ、瓦礫の中に叩きつけられてしまった。


 雨宮は意識を失ったらしく、彼女が纏っていた青いオーラは消え、ピクリとも動かなくなった。


「…………」


 早苗は、雨宮を一瞥すると黒い翼を消してオーラだけを纏った状態で、尻餅をついて地面に座り込んでいる早織の元に近づく。その顔は、怒りに満ち溢れている。


「お姉ちゃんっ」


 その声に、早織の体がビクッ! と跳ね上がる。


「どうして防げなかったのっ。最後のやつは仕方無いとしても、その前の爪なら打ち砕けたはずだよっ?」


 姉妹だからか、それともクローンだからか。早苗は早織の異変に気付いていた。


 早織は、目を伏せて震える唇で早苗に雨宮から聞いたことを伝えた。混乱していたためか、話が纏まらず終わるのに数分を要した。それを早苗は長いストレートの茶髪を風に揺らしながら、静かに聞いていた。


「要するに、黒神君が信用できなくなったってことっ?」

「…………」


「あのさっ。お姉ちゃんは黒神君のこと好きなんでしょっ?」

「へっ!?」


 思わぬ言葉に、早織は顔を上げて、目を大きく見開いた。


「それに、黒神君は私たちを助けてくれたっ。そんな彼が理由も無くお姉ちゃんに嘘をつくと思うっ?」

「それはそうだけど、でも、もし世界的に見て私たちが悪者なんだとしたら……!!」


 黒神が嘘をついているかどうかが問題なのではない。彼が『正義』か『悪』かが問題なのだ。もしかしたら、自分は黒神の手助けをすることで悪の道へと進んでいってしまっているのではないか。そんな不安が早織の中を駆け巡っているのだ。


「もう、面倒くさいなっ!!」


 深いため息を吐き、早苗は黒いオーラを纏った両手で早織の胸倉を掴んで、そのまま彼女の体を持ち上げた。


「今分かってるのは、黒神君は敵じゃないってことっ。私たちを救ってくれた、恩人だってことっ!! そして、あいつらが敵だってことっ!!」


 早織は息苦しそうな表情を浮かべながら、早苗の両手を掴み返している。


「それでいいじゃんっ。黒神君が、私たちの『英雄(ヒーロー)』が戦ってるっ。それだけで十分でしょっ!! 大体、この状況でどうしてあいつらが正義だと思えるのっ!?」


 その言葉に、早織は何も言い返せない。ただ苦しそうに足をジタバタさせているだけだ。


「黒神君を信じるんでしょっ! だったら、迷う必要なんて無いっ!! あいつらは私たちの敵っ!!」


 真実を知るのは、今である必要など無い。少なくとも、現在の危機を回避してからで遅くないはずだ。ならば、信じるべきものはなんだ。



「しっかりしろ、お姉ちゃんっ!!」



 顔についている固まった血の上を、早織の涙が滴り落ちていく。


「……さ、なえ。く、苦しい」

「あ、ごめんっ」


 ゆっくりと掴んだ両手を離し、早苗は早織を地面へと下ろした。涙に濡れた彼女の目には、もう迷いはないようだ。


「ありがとう早苗、目が覚めた。私は黒神君を信じる」

「全く……面倒くさいんだからっ」


 2人は瓦礫に埋もれた生徒たちの救出に向かう。ふと遠くへ目を向けると、黒神以外のメンバーが既に救出作業を行っていた。


 彼らの元へ向かいながら、早苗は思う。


(多分だけど、黒神君が何も伝えなかったのって、お姉ちゃんを守るためだよねっ。これは、両思いの線が出てきたかもっ?)


 こんな状況で不謹慎だと分かっていながらも、早苗はニヤニヤするのを止められなかった。

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