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第三章  それぞれの戦い、それぞれの想い(9)

 能力には、様々なタイプがある。

 例えば月宮早織や朝影光のように、多種多様な技を繰り出すもの。例えば、雨宮雫のようにある1つの技しか出せないもの。


 どちらが有利ということは無い。しかし、前者の方が使用者としても成長を実感できるし、実感できるのならば自分の能力を更に磨こうと考えるだろう。


 後者は、永遠に1つの技を鍛えなければならない。言い換えれば、それしかできないのだ。だから、後者のタイプはあまり成長しない場合が多いようだ。

 そして、鏑木蒼真は後者である。


「貴様、もしや無能力者ではあるまいな?」


 黄色いオーラを纏ったマスク姿の男、鹿島は目だけで表情を示しながら低い声で尋ねる。

 彼が鏑木のことを無能力者と思ったのは、先ほど衝突した時に鏑木が拳を思いっきり振り回しただけだったからだ。


「いや、身体強化の線もあるが、であれば衝突する前に拳を出した方がよかろう。やはり貴様……」


「俺思うんだよ。そう簡単に自分の能力をバラしていいのかって。自ら手の内を明かすのは、相当余裕のある奴だけだ。だから、俺は明かさない」

「ふん、それでもよい。どうせ、貴様は我の雷撃で焼け死ぬのだからな!!」


 直後、鹿島が両手を前に突き出しながら鏑木に向かって突進してきた。鏑木はそれを避けようと右に転がるが、その刹那、彼の体を激しい電撃が襲った。


「がぁぁぁぁああああああああああ!?」


 電撃は止め処なく流れてくる。辛うじて鹿島の方に視線を移すと、彼は立ち止まって、突き出した両手をこちらに向けていた。

 だが、その手から電撃は放たれていない。


(い、一体どういうことだ!? 普通の電気系能力じゃない……)


 考えている間にも、うつ伏せに倒れている鏑木の体の中で電撃が暴れ続けている。そして、鹿島がゆっくりとこちらに近づいてくる。


「ふん、説明する余裕は無いんでな。このまま焼き殺してやる」


 段々と電撃は強くなっていき、遂に鏑木の体は意識に反して跳ね回るまでになってしまった。グチャグチャにかき乱される思考。


(が、くそ!! 何なんだあの能力は! この内側から湧いてくる……電気? 内側?)


 そう、鹿島は1度も電撃を外に放出していない。つまり、彼の能力は――


「その顔、気付いたようだな」


 顔、とはいうものの鏑木の顔は苦悶としか表現出来ないほど歪んでいる。口からは泡を吹き、目からは粘々した液体が流れ出している。


「我の能力は体内の電気量を変えるもの。まあ、気付いたところでもう遅い。貴様は死ぬのだ」


 鹿島の言う通りだ。

 その能力に気付いたとして何ができる? もはや思考は安定しないし、体も動かない(否、勝手に動く)。文字通り、反撃の術は残されていないのだ。


 例えば、鹿島の意識が別の物に向けば話は変わってくる。

 誰かの体内の電気量を操作するのであれば、当然鹿島の意識は当該人物に集中していなければならない。これが彼の弱点だ。つまり、多対一に弱い。


 しかし、この状況でそれを望めるだろうか。近くには二宮がいるが、彼女は自分の戦いで手一杯だ。やはり、もう鏑木に打つ手は無い。


「がぼっ!! ぐぶぁぁぁぁっ!!」


 口から吐き出されたのは血なのか、それとも胃液なのか。その判断すら付かない。意識も段々遠のいていく。そんな中、彼は鹿島がポツリと呟いた言葉を聞いた。


「次はあの女子を殺すか。安心院も苦戦しているようだからな」


 グチャグチャの思考の中に、明確な怒りが浮かぶ。それだけは、彼も認識できた。

 そして、それを援護するかのような出来事が起こる。

 突然、様々な色の混じった斬撃が鹿島を襲ったのだ。


「むぐぅっ!? こ、これは……新庄の」


 彼は慌てて後ろを振り返る。すると、少し離れた場所に刀を持った人影があった。だが、それは彼の予想した人物ではない。

 ストレートの金髪で、爽やかな笑顔を浮かべた少年が1人。


「貴様、何故新庄の技を!!」


 少年は答えない。代わりに、彼の後ろを指差した。

 そこには、顔をグチャグチャに歪め、目や口からは赤や透明の粘々した液体を垂らしながらも立ち上がった少年がいた。

 普通ならば、鹿島の集中が切れ、電撃が止まったとはいえこれほどの攻撃を受ければ身動き1つ取れないはずだ。


「き、貴様……」


 両手を鏑木に向かって突き出すが、後ろの金髪の少年が気になって能力を発動できない。


「お、れは。まけ、られない、んだ!!」


 ゆっくりと、呂律の回らない舌で言葉を継ぐ。継ぎながら、足を引きずって鹿島に近づいていく。


「何だ!? 体が動かん!!」


 鹿島は気付いていなかったが、実は金髪の少年――藤原が能力を使って鹿島の体を止めていたのだ。

 焦る鹿島を鏑木は見ていない。


 オールバックだった茶髪は乱れ、寝起きのような髪型になっている。碧眼に宿っていた光は消えかけ、戦える状態ではないようにも見える。だが、それでも鏑木は動き続ける。


「み、ら、いは、おれが、まもる!!」


 その右拳に力が込められる。だが、精々握るくらいしかできていない。つまり、大して力が入っていないのだ。


「だから、まけられ、ないんだ!!」


 そして遂に、その拳が届く距離にまで辿りついた。


「くっ、だが、その体で何ができる? 精々我に傷を負わせる程度だろう。そしてその拳を振りぬけば貴様はもう動けなくなる!!」

「確かに、そうかもしれないね」


 そう言ったのは藤原である。彼は笑顔を崩さぬまま鹿島にこう告げた。


「でもそれは、蒼真があの能力じゃ無ければの話だ」

「一体どういうことだ!!」

「喰らってみなよ、彼の拳を。それで全ては終わる」

「ふん、ならばやってみるがいい。後悔するのはきさ――」


 鹿島の言葉はそこで途切れた。

 鏑木が振りぬいた拳が彼の顔に突き刺さったからだ。

 まるで顔が砕けたような音が響き渡り、鹿島の体はノーバウンドで数メートル吹き飛び、瓦礫に衝突したことで止まった。


 衝突の際、彼の口からは大量の血が吹き出され、そのままうつ伏せに倒れた彼はピクリとも動かなくなった。


「『一撃必殺(ワンショットキル)』。それが蒼真の能力さ……と言っても、聞こえてないか」


 視線を変えると、鏑木がうつ伏せに倒れていた。彼も意識を失っているらしく、呼吸こそあれ、全く動かない。


 『一撃必殺』。

 文字通り、自身の拳を当てた相手はその一撃で意識を奪われるというものである。身体強化能力の一種であるが、ある1つの部位だけを極限まで強化する点で、普通の能力とは異質なものとなっている。


 たった一撃。されど、彼の一撃はそれだけで勝利を掴み取る。

 どんなに弱い拳でもその能力が適用されるまでに成長したのは、ひとえに鏑木の努力の成果と言えるだろう。


 1つの技を極める。簡単なようで、難しいことだ。

 鏑木を突き動かすものは、もうお分かりだろう。彼の強靭な精神力は、彼女がいるからこそである。

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