第三章 それぞれの戦い、それぞれの想い(3)
月宮早織は食堂がある方向へと走っていた。追ってくるのは短い赤髪の、眼鏡をかけた少女だ。青い目の少女は頬にそばかすを蓄えている。
(……ここまで来れば!!)
食堂も例に違わず爆発したらしい。火器が多いからか、燃え方が尋常ではない。だが、よく目を凝らすと瓦礫の間から半透明の膜のようなものが見える。
藤原が使ったような防御系の能力者がいたのだろう。
「あなたたちは、一体何者なの……」
振り返り、走るのを止めてゆっくりと歩きながら近づいてくる少女を睨みつける。早織もやはり怒りを覚えているようだ。
「『楽園解放』。名前。知ってる?」
赤髪の少女は全く悪びれる様子がない。
「『楽園解放』って、治安維持部隊よね。だったらなんでこんなことを!!」
「私たち。それ。違う。『エデン破壊論者』。実行する者。『楽園解放』」
『エデン破壊論』。
黒神が早織を守るために必死になって隠してきた単語だ。それを、少女はアッサリと伝えてしまった。今この場に黒神がいたら、彼はすぐにでも戦闘を始めただろう。
「何、それ……『エデン破壊論』?」
「そう。知らなかった? 詳しいこと。お仲間に聞けば。その前。死ぬけど」
「……ふざけないで。よく分かんないけど、とにかく私はあなたたちを許さない!!」
叫びながら、早織は両手にそれぞれ小さな水球を出現させる。それを見て、赤髪の少女は青いオーラを纏った。
「オーラ……黒神君と同じ」
黒神や朝影の能力を見たことがあるとはいえ、早織自身オーラを纏った能力者との戦いは初めてだ。彼女の額に周りの炎の熱から来る汗とそれとは違う汗が混じって落ちてくる。
長いポニーテールの茶髪をなびかせながら、早織は少女へと突進していく。
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」
「無駄。瞬殺」
少女はそれぞれの指から5本の水のビームのようなものを出した。そしてそれを爪で引っ掻くように早織へと振り回す。
突進していた早織は止まって避けようとしたが、上手く止まれず――
ザシュッ!! という音と共に、早織の体は5つに切り裂かれてしまった。
だが。
「……? どうして。血。出ない?」
そう、切り裂かれた体からは全く血が出ていない。それどころか、血の代わりに水が噴出している。少し経つと、早織の体は全てが水となって地面に水溜りを作り、文字通り消えてしまった。
「どういうこと? 水人間?」
「強ち間違いじゃないわ」
後ろから、早織の声が聞こえた。驚いて振り向いた少女を待っていたのは、水で出来た剣を構えていた早織だった。
そしてその剣が、少女の体を目掛けて振り回される。
辛うじてバク転が出来たが、完全には避けられず少女の頬からは少量の血が流れ落ちる。
右手で血を確認しながら、少女は笑った。不気味に、そして愉しそうに。
「うふふ。私。雨宮雫」
「……月宮早織」
お互いに名を名乗り、2人の少女は再び激突する。