第三章 それぞれの戦い、それぞれの想い(1)
目を開けると、視界は塞がれていた。目を怪我しているわけではない。黒神の体を押しつぶしている瓦礫や、目の前に積まれている柱のようなものの残骸などのせいで、前が見えないのだ。
「くそ……何が、どうなって……」
学校が爆発した瞬間、黒神は『氣』を纏った。だから、制服こそ所々穴が空いていたり、泥のようなもので汚れているものの、黒神自身に怪我はない。
彼は『氣』を纏ったまま自分の体を圧していた瓦礫を横へとどかしながら立ち上がる。幸い、彼の近くには火の手は上がっていない。
「……なん、だよこれ……」
立ち上がった瞬間に、彼は気付いた。歓談部の部室は3階にあるはずなのに、今自分が立っているのは、瓦礫が下に積みあがっているとはいえ、せいぜい1階の高さだ。そう、つまり。
「学校が、崩壊した? っ!! 歓談部のみんなは!?」
黒神は部室から出ていたが、そこまで遠くには行っていない。となれば、藤原たちも近くにいるはずだ。
そう思って辺りを見渡すと、半透明の球体が瓦礫の中に埋もれていた。そして、その瓦礫をどかすと球体の中に歓談部のメンバーがいるのが確認できた。全員無事のようだ。
「部長、これって」
「……ありがとう終ちゃん。そうだよ、僕の能力……いや、僕がコピーした能力だ」
藤原が使ったのは防御系の能力だろう。あの球体に包まれていた部分だけが無傷だ。
「一体、何が起こったのこれ……」
早織が周りを見回しながら、震える唇で呟く。二宮と鏑木はあまりに突然の出来事に、未だに震える足を抑えることが出来ず、瓦礫の中に座り込んだまま怯えた表情をしている。そんな2人の側に橘がいて、何とか励まそうとしている。
「動けるのは、僕たちだけのようだね。多分、死人も出ている……かな。万が一そうじゃなくても怪我人は多いだろうね」
回復系の能力者が常駐しているランク戦用の施設も、校舎と同じように崩壊していた。どうやら、学校の敷地内の建物は殆どが壊れているらしい。
「マズイな。あそこが壊れてるってことは、回復系の能力者たちは……」
回復系の能力者は、文字通り回復の能力しか使えない。要するに、崩壊する施設から身を守る手段が無いのだ。
学校内でも、防御系の能力者や彼らと同じ空間にいた者はなんとか助かっているかもしれないが、創でない者は今は動けない状況だろう。
それに、防御系の能力者がその能力を解除してしまったら、待っているのは積みあがった瓦礫の落下だ。そう簡単には動けない。それに、周りを囲む炎にも対処しなくてはならない。
「文字通り、僕たちしか動けない。とにかく、早くみんなを助けないと――」
そう言って、藤原が動こうとした時。
「ほう、やはり貴様は動けるのか、『英雄』よ」
長くて、綺麗な黒髪がふわりと。
声が聞こえたほうを向くと、そこには瓦礫の上に優雅に立つ6人の人間がいた。
「それに、丁度6対6になるようだな。奇跡と喜ぶべきか、面倒と嘆くべきか」
先頭に立つ凛とした、美しい少女が黒神たちを見ながら言う。
彼らの正体に、黒神には心当たりがあった。そう、朝影が電話で忠告してきた集団。
「……『楽園解放』」
「大正解だ。さて、見せてもらおうか……貴様たちの強さを!!」
戦いは突然に、そして理不尽に始まるものである。今も。そして、これからも――