第二章 動乱の産声聞こえし時(7)
部室には、藤原と橘、そして月宮までもが揃っていた。要するに、歓談部全員集合である。
「やあ終ちゃん。それに、1年生たちも。部活の時間ではないけど、久しぶりに全員揃ったね」
どうやら、藤原たちも昼ごはんをここで食べるつもりだったらしい。各々自分の昼食を持参している。今部室にいる者の中で、昼食を持っていないのは黒神だけだ。
「もしかして終ちゃんは昼食を忘れたから、歓談部に何かあるか見に来たのかい?」
黒神たちが椅子に座るのを見ながら、藤原は尋ねる。
「その通りですよ。蒼真たちの入れ知恵ですけど」
「うわ酷ぇ! 俺たちのせいにしないでくださいよ!!」
そんな会話をしているうちに、早織が黒神たちの分のお茶を淹れた。最初は橘が淹れようとしていたが、やはり早織がそれを制した。昨日と全く同じ展開である。
「黒神君、お菓子なら少し残ってるよ?」
早織がお菓子の入っている棚を漁りながら言う。彼女はクッキーの入った箱を取り出して、中身を皿に移した。それを黒神の前に置く。
「ありがとう、月宮。これで少しはマシになる」
とは言ったものの、他のメンバーが自分の昼ごはんを食べるのを見ていると、やはり物足りない。しかし黒神に出来るのは我慢することだけだ。
(これが本当の飯テロって奴か? まさか目の前でやられるとはな……)
何とか気を逸らそうと、黒神はポケットから携帯電話型のデバイスを取り出す。すると、デバイスの画面にメールの通知が来ていた。
(朝影? 何で昼間に……)
開いてみると、そこには――
『今朝、隊長たちが全滅させられたらしいわ。相手は、外界に残った「楽園解放」。12月の作戦を踏襲してるみたいで、もしそうなら狙われるのはホープ。これを見たら電話して』
黒神は慌てて部室を飛び出し、少し離れた所で朝影に電話をかけた。
「もしもし朝影か! 一体どういうことなんだ!?」
朝影は冷静だった。
『文面の通りよ。隊長から直接連絡が来たわ。交戦したのはコルン』
コルン。その名前を黒神は知っている。ケーキの美味しい露店があることだけではない。コルンは、初めて朝影と戦った場所である。
『そして、あの時の作戦を踏襲しているのなら、次はホープ。それに、今の状況を考えれば貴方の学校が最優先目標になるはずよ。理由は……』
「俺がいるからか」
『その通り。奴らは貴方の排除を優先してくる。それから……早織さんもかな』
「何で月宮が?」
『「二重能力試行実験」。少しでも脅威になる可能性があるのなら、彼らは容赦しないわ』
確かに、『二重能力』が発現しているのなら、敵にとっては大きな脅威となり得る。そう考えれば、敵が早織を優先目標にしているのも頷ける。
「俺はどうすれば……つーか、お前は今どこにいるんだよ!」
『私は今貴方の学校に向かってる。間に合えば良いけど……とにかく、敵が攻めてきたら応戦して。貴方と早織さん以外にも学校には強い能力者がたくさんいるはずだから、彼らと協力するの。だから――』
そこで、2人の電話は途切れてしまった。
だが、朝影の方に原因はない。
原因は。