第二章 動乱の産声聞こえし時(3)
結局、黒神は朝影の姿を見ることなく登校した。
教室に入るやいなや、茶髪ロン毛の少年、南波洋介が話しかけてきた。
「よお終夜。冬休みの宿題は終わったか?」
ニヤニヤしながら話しかけてくるのを見ると、彼は黒神の口から『終わっていない』という言葉が聞きたいようだ。
だから、黒神はこう返した。
「終わったよ」
実は、黒神は月宮姉妹の一件の後、入院している最中に宿題を進めていたのだ。基本的には自分でやっていたのだが、時折早織や朝影に手伝ってもらいながら。
そして正に昨日、コンプリートした宿題を各教科の教員へ提出し終わっていた。
「ふはは、いつまでも怠けてる黒神君ではないんだよ!!」
黒神の勝ち誇ったような笑いが教室に響き渡る。周りの生徒からは白い目で見られていたが、彼は気付いていなかった。
「ま、まさか終わらせてるなんて……俺と同じくらい忙しかったはずなのに……」
「おい、洋介。お前もしかして……」
笑うのを止めて、黒神は俯く南波に恐る恐る声をかける。すると、南波は目尻に薄っすらと涙を浮かべながら、
「うるせぇ! 終わってねぇよ!! 終わってねぇんだよぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」
まるで子どもが口喧嘩に負けたかのように喚き、南波は腕で目を覆いながら教室の外へと走っていった。その背中は、何となく小さく見えた。
「な、何なんだあいつ。つーか、俺よりも好条件なのに終わってないってのはどうなんだ?」
南波の言葉に気になる点があったものの、首を傾げながら黒神は自分の席に座り、1時間目に使う教材を取り出しながら、近くの席のクラスメートと話したりして時間を潰した。