第一章 歓談部の平和な日常(7)
藤原はまだ攻撃してこない。黒神が繰り出すパンチや蹴りを避けたり受け止めたりと、防御に徹している。
ここで、黒神は藤原の能力を予想していた。
最初のパンチで傷つかなかった顔、そして今、『氣』を纏った黒神の攻撃を難なく受け止めていること。これらから考えると。
(身体強化ってやつか?)
それならば、大体は納得できる。しかし、
(そんな能力で最強って言えるのか……? いや、確かに使い手が強ければそうなのかもしれないけど、いくらなんでも大学側が原則を破ってまで獲得したくなる能力とは思えない)
後ろに建物が迫ったためか、藤原は黒神の攻撃をいなして横へと移動する。
「君の能力は接近戦用かな?」
「それだけじゃ、ないですよ!!」
距離をとった藤原に向かって、黒神は白い光線を発射する。
「ふむ、遠近両用。万能型ってわけだ」
その光線もいとも簡単に避けられてしまう。黒神は額から汗を垂らしているのに、藤原は全く汗をかいていない。さらに、涼しい表情で拳を構えている。
「今はそれが君の全力って所か。なら、そろそろ僕も戦うとしよう」
直後、藤原の体の後ろに巨大な水球が出現した。
「え……水っ!?」
驚く黒神に向かって、水球から何本もの水の槍が発射される。その数は黒神の視界を完全に塞ぐほどで、回避のしようがない。
「くそっ、なら正面突破だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『氣』を両手に集中させて、巨大な光線を放つ。水の槍の耐久度はそこまで大したものではなかったらしく、白い光線に触れた槍はすぐに霧散する。
大量の水を浴びながら、黒神は前へと進む。そして、ようやく藤原の姿が見えた瞬間、
「甘いな、終ちゃん」
藤原はしゃがんでいた。そして、地面に出来ていた水溜りに手を突っ込んでいる。その手が眩しく光る。直後、黒神のからだに比喩ではなく、本当に電撃が走った。
「が、あぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!?」
体が焦げ、全身に激しい痛みが伝わる。それに耐え切れず、黒神は頭から地面に倒れてしまった。
「がふっ、ま、さ、か……」
「何か、思いついたかい?」
藤原は黒神の所へと近づいてきて、彼を見下ろしながら笑顔で言葉をかける。
黒神の頭に浮かんだのは、早織と早苗の事件で知った単語。
「でゅ、『二重能力』……げほっ!!」
実際は身体強化、水、電気の3種類を使っているので『多重能力』とでも言うべきなのだろうか。
「ふふ、いい線言ってるよ。あの一件に関わったのなら、誰だってそう思うさ。でも、不正解だ」
「な、どういう……」
「冷静に考えてみなよ。もし僕が『二重能力』だとしたら、月宮ちゃんの実験なんて必要ない。さて、『二重能力』じゃないとしたら、後はどういう可能性が残ってる?」
『二重能力』でも『多重能力』でもない。だが多様な能力を扱える。まるで、『複数人の能力を真似ているかのように』。
「こ、コピー……?」
「正解だ。僕の能力は『永続模倣』。1度見た能力を使えるようになるってものだよ」
ともすれば、『二重能力』よりも強力な能力。だからこそ、大学が掟を破ってまで求めるのだ。
「そ、そんなの、チートじゃないです、か……」
「もちろん、弱点はあるさ。それを見つけるのが次の課題だ。さてさて、見せてもらおうか……『英雄』の底力ってやつを!!」
ようやく体が動くようになった黒神が立ち上がるのを待ちながら、藤原は高らかに言う。
黒神が立ち上がった直後、藤原の拳が彼の顔面に突き刺さり、後ろにあった建物の壁に体を叩きつけられた。